強くしたいのは「つくる人」 「メイド・イン・関」のパン切り包丁(2)
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スリースノーの「パンきり専科」を製造する岐阜県関市のサンクラフトさん。第1章の工場見学の続きです。
中村圭吾さん
岐阜県関市の包丁メーカー、株式会社サンクラフトの国内営業として活躍中。2018年に開発・リリースしたパン切り包丁「せせらぎ」はクラウドファンディング(「三種の刃で楽々カット。岐阜関市の老舗メーカーが作るパン切りナイフ「せせらぎ」)にて大反響を呼び、たちまちパン切り包丁人気を日本中の家庭に広めた。家庭のみならず、パン・洋菓子店舗の調理人とも細やかなコミュニケーションをとりながら、様々な道具の開発・改良に取り組んでいる。スリースノーの「パンきり専科」の担当でもある。
※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)
品質管理の裏側
中村「ここは樹脂の成形工場です。包丁のハンドル部分の樹脂パーツなどを作ります。うちは樹脂をインサート成形(刃本体部分と一体となるように成形)するものもあるのですが、この部門があることで社内で完結できるようになっています」
山後「樹脂の成形も!?金属加工をメインにしつつ、樹脂も社内でやっているところはかなり珍しいように思います」
中村「そうかもしれませんね、包丁メーカーで他はあまり聞きません。ちょうど今見ていただいているのは包丁ではなくスライサーの本体を作っているところです。包丁だけではなく、こういった「切る」キッチン道具も作っていますが、これの難しいところは樹脂の厚みを一定にするところ。樹脂という素材は熱収縮による変形の問題があって、金型を使って成形するだけでは厚みが一定にならないのです」
山後「なるほど、その後に整形する必要があると」
中村「そうです。この商品なんかは熱収縮を抑えるために重りを乗せていたのですが、これまでは職人技術を持った社員が一点一点、経験に基づいて品質をコントロールしていました。しかし、新しく入ってくる社員さんは当然同じようにはできない。そこで社員の力量に関わらず安定した品質を保てるように、社内で治具を開発・改良して生産できるようにもしています」
山後「とても重要なことですね、素晴らしい。私たちの製造の思想にも通ずるところがありますね」
中村「そういった改善を重ねていってはいるものの、最終は寸法を図りながら検査はしています。機械を使用していたとしても、途中アナログな工程も入っている商品が多いので、ここでの検査は品質保証のためにはなくてはならないのです」
山後「なるほど。色々と考えさせられる部分も多く、勉強になりました。工場見学ありがとうございました」
強くしたいのは「つくる人」
山後「ところで、サンクラフトさんは全員で何人ほどいらっしゃるのでしょうか?」
中村「本社の営業担当で言うと合計で4人、東京営業所には4人ですね。かつてに比べればだいぶ年齢層も若くなりました」
山後「構成比的にはやはり生産の方が社員さん多いですね」
中村「そうですね。個人的にも営業は忙しいですが、メーカーである我々としては「工場」の強化が先決であり、人員的にも工場の担当を増やしたいと思っています。アイデアグッズを「営業力」で売っていくことを基本方針とするならば話は別ですが、今の置かれている我々の立場としては、高品質なものを作って売っていく事が重要な命題なのです」
山後「なるほど、とても理解できる部分ですね。先ほど工場見学の時に紹介していただいたように、包丁の製造・品質管理には多くの変数がある前提では、いかに変数を統制する分野、人の手を厚くしていくかが課題なのですね」
中村「そういうことです。我々も様々な種類の包丁を展開し、特性や価格帯も違うものを販売しているのですが、作っているのは同じ工場の中。作り手は目の前の商品の製造に一生懸命になりますが、それぞれに違う商品特性を把握して品質管理するのにはそれなりの努力と労力が必要です。特に工場の品質管理や納期管理の担当者なんかは高い能力が必要とされます」
山後「その通りですね、たしかに。するとこれまでキッチングッズの展開が幅広かったサンクラフトさんですが、包丁の製造の方に比重がシフトしている感じでしょうか」
中村「そうですね。大きなテーマとしては「切れる」ものを積極的にやっていこうという方針です。例えば包丁だけだったらほかのメーカーさんと同じ土俵に立つことになってしまうのですが、我々の強みとしてはいろいろな小物ができること。スライサーやおろし器、ピーラーなどがそれですね」
山後「なるほど、単に柄と刃渡りの造形のものを製造するだけではなくて、工場内には樹脂の成形機能があるように幅広い形状の展開ができるという点がそれを実現可能にしているということですね」
中村「はい。だから「切れる」ことに焦点を当てることで差別化できることがあると思っています。その反面キッチングッズの展開もありますが、東急ハンズさんなどPBブランド品として出しているキッチングッズのタグには、製造元としてサンクラフトの名前を記載してもらっています」
山後「そうなのですね、なかなか珍しい。製造元を明記することでサンクラフトさんがこういったものを作れるということを証明することになりますよね」
中村「そうなのです。これもうちの重要な資産ととらえていますね。我々がそういったものを作れるキャパシティや関係性を示すことにもつながります。道具の種類としては「切れるものではない」お玉やターナーもありますが、我々のまた別の側面を見せることができるものであるので、継続することには意味があると思っています」
包丁の製造現場には様々な「変数」があり、この一つ一つが微妙に異なるからこそ生じる難しさがある。それに向き合うサンクラフトさんの作り手の想いを知ることができました。続きのお話では道具を生み出す考え方について、深く掘り下げていきます。
次章(第3章)はこちら
Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Kakeru Ooka :Office-Atom
Edit: Mayuko Kimura