お知らせ・特集 NEWS

  • 2023.07.06
  • 特集

道具を生み出す 「メイド・イン・関」のパン切り包丁(3)

1章,2章ではサンクラフトさんの工場の内部に迫り、作り手としての強みを教えていただきました。第3章では商品開発のプロセスについて深掘りしていきます。

中村圭吾さん

岐阜県関市の包丁メーカー、株式会社サンクラフトの国内営業として活躍中。2018年に開発・リリースしたパン切り包丁「せせらぎ」はクラウドファンディング(「三種の刃で楽々カット。岐阜関市の老舗メーカーが作るパン切りナイフ「せせらぎ」)にて大反響を呼び、たちまちパン切り包丁人気を日本中の家庭に広めた。家庭のみならず、パン・洋菓子店舗の調理人とも細やかなコミュニケーションをとりながら、様々な道具の開発・改良に取り組んでいる。スリースノーの「パンきり専科」の担当でもある。

※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

サンクラフトの開発

中村「私自身は営業の大先輩の方々に比べれば、まだアイデアも乏しい。ですが、包丁系の新商品の開発には力を入れて取り組んでいます。パン切包丁の開発もその一つで、パンの業界、ユーザーさんに対してアプローチしているところではありますね」山後「なるほど、中村さんの得意分野ということですね。ちなみにサンクラフトさんの商品開発のスタイルはユーザーさんや業界の声を聴きながら形にするタイプか、あるいは自社でコンセプトを練りながら商品アイデアを出していくタイプか、どちらになるのでしょうか」

中村「どちらかと言えば前者ですね。この新越さんのパン切りで言えば情報やアイデアは当時の新越さんの営業さんが持ってきて、うちの包丁の製造ノウハウをかけ合わせることで実現した商品だったと思います。今では当社もパン切関係でお話を聞けるようなパン教室の先生やシェフとのつながりができたので、必要な要素を直接ヒアリングすることができ、商品開発に生かすことができます」

山後「そうなのですね。その会話の時間は大切ですよね」

中村「そう思います。例えば自社でやっているパン切り包丁のサイズ展開を考えていた時に、たまたまパン教室の現場にお邪魔する機会があって。私は第一弾の商品サイズより長いモデルの需要があるのではないかと考えていたのですが、現場の人たちからは「そうではなくて、同じ切れ味でもっと短い商品が欲しい」ということを聞いたことがありました」

山後「なるほど、中村さんが想像していた商品への要望と反対の意見が集まったのですね」

中村「そうなんです。そこで、短くコンパクトなサイズのパン切包丁がほかのメーカーで廃盤になってしまい、ユーザーさんたちが”難民”になっているという事情に初めて気づいたんです。それで意見を社内に持ち帰り、必要な要素を整理して作っていきました」

山後「ユーザーさんがズバリほしいものに出会えた感じですね」

中村「そうですね。他にもこの業務用の45cmの包丁なんかは40cm×60cmサイズのケーキをカットするためにどのくらいの長さの包丁がいいのかという課題に向き合いながら作りました。我々が40cmがいいのか42cmがいいのか正解が分からないときにプロの調理人の方に聞きに行って「縦(短手)方向を一発で切れる45cmがいい」という答えを得られたことにより、この商品の形状に至ったということもありました」

山後「なるほど。これは解決が必要なテーマに対してエビデンスを聞きに行った感じですよね」

中村「はい。ユーザーさんの声を聞けるようになったからこそ、その声を聴く大切さは感じていますね」

山後「私たちの商品開発でもかなり近いところのステップを踏んでいくのでその考え方はとてもよく理解できます。ユーザーさんからのフィードバックを得ることができることがメーカーである私たちにとっての宝であり、必要不可欠な要素ですよね。包丁屋とザル屋で作っているものは違えど開発するコミュニケーションの仕方には通ずるものがありますね。聞いていると使いたくなってきますよ」

量産するパワー

山後「この後お話で伺うスリースノーのパン切専科ですが、その切れ味に感動した折に、いろいろ考えることがあって。やはり包丁の関、それだけの産地の歴史が積み重ねてきたものがこの切れ味につながっているのかなとか。もちろん新潟も包丁を生産する有名なメーカーさんいらっしゃるんですが、産地ごとに最適化されて形成されてきたものづくりの基盤があるのではと」

中村「そうですね、産地でいろいろ違う部分はあると思います。包丁だけではないですが、機械化の観点から見ると生産基盤の特色は見えるかもしれません」

山後「機械化の観点」

中村「そうです。そこまで新潟の内情に詳しくないのですが、例えば包丁で言えば大阪・堺も有名です。製法としては今でも手作業で製造する部分がありますが、あまり大きなロット条件にならないことが多いのです。それに対して関の包丁製造はロット条件が大きい。機械化による作業だと段取り工程もそれなりに時間が必要なので」

山後「我々も機械による製造を主としていますので理解できます」

中村「ロットは取引時のハードルにはなるかもしれませんが、機械化が進んでいるという意味ではパワーのいる生産(=量産)が得意なのは特色かなと思っています。もちろん我々も手作業の部分はありながらですが、例えば数千本のオーダーでも対応していける製造能力という部分はうちも大切にしていきたいところですし、関の強みだったりするのかなと思っています」

山後「なるほど、そういう強さがあるんですね。聞いているともっと勉強したくなります」

中村「いわゆる同じ種類の包丁でも、場所によって作りが違ったり設備が違ったりして、何が正解じゃないとは思うんですが、違いですよね」

山後「そうですね。燕にもいろいろなものづくりをする企業さんがいて、面白いことにみんなそれぞれに製法や特色も違う。大量生産が得意なタイプの企業もいれば、一品ものの生産が得意なタイプもある。それぞれに必要とされている形になっているのだと思うのですが、少なくとも「良い品質のものをたくさん作れるパワー」ってすごい力だなと思います。今、周りの製造の環境からするとどんどん製造能力を持った企業さんの数が減ってきている現状は包丁でもあると思うのですが、それについてはどうお考えですか」

中村「確かに製造できる企業さんの数が減っているというのは我々の界隈でも感じているところです。単に製造できる人手・担い手の不足もありますが、加工屋さんが業態転換したことで受注できなくなったところもあります。我々もそういった影響なのか問い合わせを受ける件数も増えたような気がします」

山後「そうですよね。だからなおさら製造基盤が大切になってくる」

中村「そうだと思っています。メーカーである以上「製造」が源泉です。例えば採用も将来を見据えて製造での採用に力を入れて取り組んでいる部分もありますね」

山後「こうやってお話を聞いてきていますが、お互いにこれからも学び合う関係値になれたらいいなと思っています。今日、工場を見せてもらってはじめてわかったことも多かったですし、量産を前提とする工場は一つの工程に標準化させる努力や工夫、そしてそのヒントになる部分は共通するところが多いと思っています」

中村「そうですね。我々も勉強させてもらいたいところは多いですし、ぜひともそういった交流をもっと促していければと思っています」

丁寧にユーザーの声を拾い上げながら形にしていくプロセスには、私たちスリースノーの商品開発にも共通するものがあります。地道な使い手の調査と自社の強みを活かす開発・製造のプロセス。そこから生まれる製品は使い手にとって、最高に使い心地の良い製品を生み出すことでしょう。その工場から生まれたスリースノーのパンきり専科、その魅力について続く第4章で深掘りしていきます。

前章(第2章)はこちら

スリースノーのパンきり専科はこちらから

Text:   Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Kakeru Ooka (location shooting)   /Atom Munemura (studio shooting):Office-Atom
Edit:   Mayuko Kimura