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  • 2023.07.05
  • 特集

「メイド・イン・関」のパン切包丁(1)

包丁が私たちにもたらすものとは

人類が調理道具として初めて使った道具は「包丁」だったと言われます。食材を切るという最も基本的な調理工程を実現するために、人々は石を削り、その道具で食材を切り分け、命を享受できるようになりました。令和となった今、世界中で使用される包丁は精度を上げ多様化してきていますが、包丁とそれを使う私たちとの関係性は今どのようになっているのでしょうか。

ザルをメインに商品展開するスリースノーにも、知られざる「パン切り包丁」があります。製造をお願いしているのは、包丁の産地として名高い岐阜県関市のサンクラフトさん。パン切り包丁に注力する営業として活躍されている中村さんにお話を伺いました。プロから絶賛される包丁の切れ味の秘訣に迫ります。

中村圭吾さん
岐阜県関市の包丁メーカー、株式会社サンクラフトの国内営業として活躍中。2018年に開発・リリースしたパン切り包丁「せせらぎ」はクラウドファンディング(「三種の刃で楽々カット。岐阜関市の老舗メーカーが作るパン切りナイフ「せせらぎ」)にて大反響を呼び、たちまちパン切り包丁人気を日本中の家庭に広めた。家庭のみならず、パン・洋菓子店舗の調理人とも細やかなコミュニケーションをとりながら、様々な道具の開発・改良に取り組んでいる。スリースノーの「パンきり専科」の担当でもある。

※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

切れ味を生み出す工場

中村「今日は遥々ありがとうございます」

山後「こちらこそです!今日はぜひパン切り包丁の知られざる秘密や工場の様子もうかがえたらと思っております」

中村「どこまで見せられるかわかりませんが(笑)、お話を伺う前に早速ですが工場を見に行きましょうか」

中村「まず見ていただくのはプレス工場です。弊社ではプレス~包装までの主たる工程は社内で完結します。加工工程がほぼ一貫してできる点はうちの強みでもありますね」

中村「今ちょうど御社のパンきり専科の刃の部分をブランク(母材から型抜きする工程)しているところですね」

山後「あ、ほんとですね!切りしろもギリギリのところ、すごいですね」

中村「この辺は他の種類の金属加工品を作る工場でも同じですよね、母材から何本、何枚取れるかを工夫していくというのは工場が試行錯誤するところです」

中村「工場の設備には古くから稼働し続けているものもありますが、新しく導入していくものもあります。現行設備では新商品の仕様が実現できない時だったり、多い量の注文をさばいていくのに効率を上げないといけなかったりする状況がきっかけになることが多いです」

山後「わかります。うちの工場でも似たような意思決定をすることはありますので」

中村「そうですよね。例えば一つの新商品をきっかけに導入した機械で、最初はその1品目を作るだけにしか稼働しないものだったとしても、今となってはフル稼働するような機械もあります。後々の稼働がはじめから具体的に見通せなくても、導入することで工場のポテンシャルになり、最終的に全体の生産効率を上げることにつながると思っています」

山後「大切なことですよね。それが工場の作る力を強くしていくことになりますよね」

中村「このあと解説しますが、社内で波刃をつけていく工程があります。切れ味に関する重要な部分ですね」

山後「あ、波刃ついていますね。比べてみるとよくわかります」

写真左は波刃をつける前、右が波刃をつけた後

中村「ここで波刃をつけた後にも刃先の研磨をし、丁寧にバリを取っていきます。通常の包丁の研削、刃付けするところをみにいきましょうか」

山後「はい、ぜひお願いします!」

変数

中村「刃つけの工程は何段階かあり、特に時間がかかるので生産スケジュールによっては総動員で取り掛かります。この工程にたどり着くまで材料としても一定ではなく、個体差を把握しながら作業するので調整は必ず手加減で調整していきます」

山後「これはなかなか大変ですね。技術の習得はやはり経験ですか?」

中村「経験が大きいですね。訓練を積み重ねてできるようになる工程です。材料の個体差もあるし研削の段階でも一定ではない半製品を仕上げていくのです。それぞれの工程の「変数」を理解し、その変数がかけ合わさってできたものを求められるクオリティに仕上げていきます」

私たちの工場と似たところもあり、新しい発見もあるサンクラフトさんの製造工場。この工場見学の続きは第二章に続きます。

第二章はこちら

Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Kakeru Ooka (location shooting)/ Atom Munemura (studio shooting):Office-Atom
Edit: Mayuko Kimura