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  • 2026.11.08
  • 特集

淹れ手とものづくりが日本茶業界を変えていく(Satenインタビュー後編①)

日本茶は日本人にとって依然として、身近なもので、家の中で楽しむものというイメージも強いでしょう。しかし、今や日本茶をメインにしたカフェが増えたり、飲食店でこだわりの日本茶を味わえるようなシーンが増えてきました。その一方でお店でお茶を淹れるプロフェッショナルに視点を当てると、これからの日本茶とものづくりのとある可能性が見えてきました。

小山和裕さん(以下、小山):(株)抽出舎CEO。日本における抹茶ラテの火付け役として業界を牽引する東京・西荻窪の日本茶カフェのSatén Japanese Tea を経営。店を経営する傍ら、茶葉や茶器の卸販売やプロデュース、商品開発なども行い、日本茶のワークショップや専門学校での講師業も行っている

聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

第5章 プロの現場から新しいお茶の文化を作る

-片口抹茶碗すら「まだ5年」

山後「小山さんがこのお店始めたのはいつでしたっけ」

小山「 Satenを開業したのが2018年、その前に2年別の店舗でやっていました」

山後「ということは10年お店をやっているんですね。この10年で、抹茶を好むお客さんの層に変化があったと聞いていますが、道具はそれに比べるとどうですか」

小山「全くとは言いませんが、基本変わってないと思います。例えばこの片口抹茶碗が出てきたのは本当にこの5年なんです。最初にORIGAMIさんで片口を作りましょうってところからちょっとずつ形が変わってるんですけど、それができるまではそもそもお茶業界の中に「片口抹茶碗」っていう言葉はあれど、商品化されたものはなかった(*)」

*小山さんはORIGAMI Teaブランドの抹茶関連商品の開発にも携わる。

山後「今、どこに行っても片口抹茶碗で注いでますよね。むしろ一般的な抹茶碗よりも注ぎ口のついている片口の方がメジャーになっている気もします」

小山「そうなんです。抹茶碗のまま提供しているお店の方が少ないですもんね、新しいカフェ業態。本当に茶道を踏襲した店を除いて、カフェ業界でそういうのはないですね。この片口ができたのが2020年くらい。でもその時は全然鳴かず飛ばずだったんです。どこに売ればいいんだろうみたいな。今は生産が間に合わないくらい需要が伸びました」

-プロが使う道具が商品と文化を育てる

山後「今や片口抹茶碗は、抹茶をたてて注ぐ道具としては「これがいいな」っていうのはすぐに理解ができるような世界線になりましたが、例えばそれがわからない人たち、抹茶をこれからやりたいって思う人たちが出てきたとして、小山さん自身は道具のレクチャーはやりますか?」

小山「やりますよ。片口抹茶碗も、茶筅も、今ではストレーナーも。ただその選択肢がそもそもそんなにないんです。どれがいいんですかって言うほどにバリエーションがない。急須の方が目的用途にあったおすすめの仕方ができる。どういう目的でどういう形で使うんですかっていうことによって全部違うんで。いまだに片口とかは国内ではそこまで種類もないので。むしろ海外の方が種類というか、ブランドがいろいろ見えるようになってきましたね」

山後「なるほど、道具についてはこれしかないっていう状況ですね」

小山「国内でのデザイン力も乏しくなっちゃってるような気もします」

山後「商品開発を切り取ってみると、たとえ道具の製造地が日本国内でなかったとしても、日本茶の道具が日本で考えらてないってなると、ちょっと悔しい感じがあります。せめてそれを構想するのが文化を育んでいる場所にあってほしいなと思います」

小山「片口抹茶碗の件で言えば、先にこれを作れたから良かったかなとは思う。ブームの前にね。ただやっぱりこの片口を作った時とかに考えていたのは、一般消費者向けではなく、プロ向けに作ろうとしていましたね。なので、一般消費者はむしろガン無視しました」

山後「そうなんですね」

小山「家庭ではなく、お店で使ってもらう道具を作ろうと始めました。だからこの片口抹茶碗も容量的には抹茶2杯分入るんですよ。お店が使いやすくないと使う用途がないので。

抹茶なんて当時は一般家庭で飲むものでもなかったので、まずはお店に使ってもらおうと。一般家庭に普及させようとしたら、そもそもない食文化を作らなきゃいけなくなってしまうのでそれはハードルが高いし、あまり意味がない。でも今後、抹茶のお店は増えるだろうと見越した上で、2、3杯作れる容量で、たてやすくて、持ちやすくて、注ぎやすく作ってもらったんです。一般消費者ガン無視です(笑)」

-「お茶の淹れ手」が一杯の価値を高める

山後「食文化のくだりはとても共感するものがあって、お店で良いなと思って憧れて使う。コーヒーショップの例がまさにそれだと思いますが、抹茶も間違いなかったですね」

小山「抹茶もそうであるということはほぼ間違いないから、プロが使っている商品をいかに作って行けるかが肝。お茶の業界に、プロ用品という文脈がなかったということだと思います」

山後「この前Satenさんが発信しているpodcastでお話しされていたのは、結局淹れる人みたいなプロが日本茶業界で出てきたのがここ最近の話で、職業ではあるが、ケーキ屋さんのような類の概念ではまだ捉えられていない、という話。面白いなと思います。「淹れ手」が存在感をましてくることで、お茶一杯の価値が上がっていくといいなと思っています」

-業務用の道具から考える日本茶業界のこれから

小山「そうすると、この道具に対してフォーカスが向いてくるのではないかと思います。お茶屋さん、茶商さんたちがこだわったものを使ってるかっていうと、意外とそうでない場面をよく見かけます。茶器でも道具でも「決まったもの」があるんですよね。ある意味、システムが成り立ってしまっている。だから、そこに一石を投じる人は業界人しかいないと思います」

山後「例えば人手が足りなくなる状況でいうと、我々の工場とかは機械で代替するしかもうなくなったという場面はよくある。要望されている生産スケジュールをこなすのに、計算では作業者が24時間働かないと間に合わないような状況。だったら今までの作り方を1,000万円投じて機械を入れて、作業者に「あなたもう5時間で済むようになるから」みたいな改善。お茶業界でも必要ではないかと勝手に思っていますが、茶業界でなぜか「そういうわけにはいかんだろう」みたいな議論になるのも見聞きしています」

小山「なりますね(笑)。「俺たちの残り3時間どうすればいいんだ」って。「いや5時間で終わりますよ、3時間違うことしましょうよ」って思考が普通だと思うんですけど、それが言われる状況もわかります。その仕事が完全に必要なくならない限りはその議論が出てくる」

-茶商ロード

小山「静岡には「茶商ロード」なるものがあるんです。駅に近づくほど、名のある茶商が位置する仕組みになっていて。新茶が届くのが駅なんです。そこからサンプルを持って自転車に乗った兄ちゃんたちがガーって駅から走って行くんで。一番にサンプルが手に入るのが手前。店の順番になっちゃうんです。こぼれ話ですが、そのサンプルを持ってる兄ちゃんたちも自転車を漕ぐ力が強化されてマジで競輪選手になっていくっていう(笑)。静岡に競輪がある理由という説もあるんですよ」

山後「本当なんですか。面白すぎる(笑)」

小山「そういう理由らしいです(笑)。今はそんなにスピード感がなくていいですよね。その人たちの職は完全になくなったんですけど、多分その転換期に同じような話があった。別にもう車で配達すればいいじゃんって。口頭で注文を取っていたものが電話一本、FAX一通で終わるようになった。でもそれが戦後の話ですからね。遥か昔のようでまだ100年も経ってない頃の話なんですよね」

山後「なるほど」

小山「文化としての継承は素晴らしいなと思うし、歴史を知ると、すごくよく理解するんです。ただ、それと同時に、時代の流れや変化のスピードがあまりにも速くて、その進歩にまったく追いつけていない状況が今のお茶業界の現状かなと。いわゆる「失われた30年」だと思います」

山後「間違いないですね」

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