金メッキの実像
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スワオメッキ
鈴木康仁さん
新潟県燕市、金属の表面処理加工(メッキ加工)を専業とするスワオメッキ有限会社常務取締役。29歳の時に家業であったスワオメッキに入社し、自社の技術を広げるべく奔走中。令和 3 年度燕商工会議所青年部会長を務め、燕市内の企業間の連携強化にも尽力している。燕市独自のものづくり品質管理制度「TSO(Tsubame Standard Organization」2013 年取得。装飾性と抗菌性を備えるゴールドメッキの技術は市内外の企業から幅広い支持を集める。
※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)
前回のインタビューでは、新商品の茶こしの可能性を使い手側の視点から掘り下げました。今回はこの商品の「作り手側の視点」から掘り下げていきます。インタビューするのは表面処理メッキ加工業を主に行う、スワオメッキ有限会社の鈴木康仁常務取締役。燕でも指折りのキープレーヤーです。
金属製品におけるプレスや溶接などの加工後、表面処理加工(=表面改質)は必須の工程です。金属加工の産地、燕にはいくつもの表面処理加工を行う企業が軒を連ねていますが、時代や環境の変化によってそれを得意とする企業が変化を求められていることもまた事実。スワオメッキさんでは金、銀、ピンクゴールド(=金+銅)メッキの3種のメッキ加工を得意とし、さまざまな金属素材へメッキ加工を行っています。創業当初はバブル時代、ホテルブームの最中にパーティー食器の銀メッキ加工を主としていましたが、ブームの終焉とともに受注量は減少。その後燕市のお隣弥彦村の弥彦神社本殿の装飾金具の仕事を受注するのを皮切りに神社仏閣で使われる装飾金具の仕事に比重をシフトしていきました。ねじの大きさから畳一枚分の大きさまで幅広いサイズ展開の製品をメッキ加工できる柔軟な体制は、近隣企業だけでなく全国企業から評判を集めています。
2020年新型コロナウイルスが蔓延し始め人類がウイルスに対して最も恐怖を掻き立てられていた頃、金メッキの力で世の中の役に立てるのではないか、と考えた鈴木常務。着目したのは金メッキの持つ「抗菌性・抗ウイルス性」。その武器をもとに調理道具の分野にも力入れ始めました。私たちスリースノーが協働し始めたのはちょうどその頃のこと。
抗菌性のある金メッキ
山後「今日はよろしくお願いします!」
鈴木「よろしくねー」
山後「今回はスワオメッキさんに食の道具、茶こしを金メッキしてもらいました。以前からうちを含め、厨房用品関係のメッキもされておりましたが、食の業界に対してアクセスし始めたのって周りの人の影響ですか?」
鈴木「周りの人の影響っていうか、コロナが始まった頃はみんながウイルスに対して恐怖感持ったじゃん?俺も怖かったのよね。実はうち、20 年前くらいに金メッキや銀メッキに対して抗菌性があるかどうか試験をやったことがあるんですよ」
山後「え、そんな前からやってたんですか?」
鈴木「そう、その時も抗菌性があるってことで証明は取れている。ただ、証明の内容自体があまりにもアバウトで(笑)。ちゃんとした証明書としては不安だったので、もう一度証明を取りに行ったのね」
山後「なるほど。そしたら全く新しい取り組みではなくて、かつて試験したことがあったものなのですね。今、改めて必要になってきたので、もう一度きちんと効果を説明するために検証したと」
鈴木「そうそう。エビデンス大事じゃん?笑」
山後「間違いないです(笑)」
抗菌性と抗ウイルス性
鈴木「それぞれのメッキの抗菌性がわかったので、今度は抗ウイルス性の効果もあるのではないか?という話になって。試験してみたらやっぱり抗ウイルス性もあるんだよね」
山後「抗菌性と抗ウイルス性の違いってどう違うんですか?」
鈴木「菌は何か物体の表面に付着すると、そこから広がっていく習性を持っているのね。それに対してウイルスは人間の体内に取り込まれてそこで細胞が分裂して広がっていく習性のもの。つまり広がり方の違いだね。それから、菌とウイルスは個体の大きさも違っていて、ウイルスの方がより小さい。だから抗菌性と抗ウイルス性というのは違う種類のものだと思っているよ」
山後「なるほど、別種類のものなんですね」
鈴木「そうなのよ。だから抗菌性の試験をしても抗ウイルス性を同時に試験したことにはならない。逆も然りだね」
山後「そうなのですね。それぞれのメッキの種類で抗菌性はどれくらい変わるものなのでしょうか」
鈴木「ゴールドの抗菌性は 6 時間以内で 99%菌がなくなる。ウイルスに対しては 7 時間以内で 90%以上、という感じだね。それに対してピンクゴールドは約1時間で菌はほとんど無くなるし、4 時間以内でウイルスもほぼ無くなるという効果が立証されています。ピンクゴールドの方が抗菌・抗ウイルス性が高いね」
山後「それはつまり、銅の抗菌・抗ウイルス性が働いているということでしょうか」
鈴木「そうだね。ただ銅だけだと変色しやすいという課題がある。このピンクゴールドは銅成分 25%・金成分 75%が入っていて変色しづらい。抗菌性と耐食性の両方を兼ね備えているのがピンクゴールドなんだよね」
山後「ピンクゴールドすごいですね!」
鈴木「それまでは装飾系の仕事の受注がメインだったけれど、今は抗菌・抗ウイルス性が注目されるようになってきた。この価値を出していけるようになって仕事の幅が広がってきた感じはあるね」
メッキで重要なのは「洗浄」
山後「以前もスワオさんの工場を見せていただいた時に、洗浄の工程が想像より多かったことがとても印象に残っています。メッキは英語で plating と言われるように、製品の表面に何かを塗布するというイメージで捉えがちなのですが、実は何段階も製品をきれいに洗浄する工程がある。これは工場を見た人からすれば驚くポイントだと思うのですが」
鈴木「そうだね、工場を見た人たちはそこはびっくりされる方が多いかな。表面をできる限り綺麗にしておかないとメッキが“のらない”のね。密着性が悪くなる。例えば今回の茶こしなんかは網目がきめ細かいよね。これが一番の難しいポイントで。この商品を初めて加工するとき、メッキしてみたら想定していなかった跡が残ってしまって。原因を調べたら水洗する時に出る不純物や埃を茶こしの網がすくってしまっていたことがわかった」
山後「そうでしたね」
鈴木「でも茶葉をキャッチする用途の商品だから、細かい不純物をもキャッチしてしまうくらい機能性がめっちゃいいんだとも思ったよね(笑)」
山後「(笑)」
鈴木「それから水洗の仕方を工夫した。目には見えない小さな不純物も取り除くために水洗の工程間にエアブロー(空気を勢いよく吹きかけて不純物を取り除く)をかけるなどして、より一層不純物が混じらないように注意を払いました」
山後「いやぁ、ありがとうございます。”金網”という側面と”業務用調理道具”という性格上、これまで私たちの商品にメッキするということにあまり積極的にチャレンジしてきませんでした。金網は影になる部分が多いような気がしていたし、メッキの効果というか可能性を今ひとつ理解できていなかったものあって。試しにスワオさんで試作をお願いしたらとても綺麗に仕上がってきて、“これはいけるぞ!”というのを気づかせてくれました」
鈴木「さっきも言ったけど洗浄がとても重要。下地の処理にも工夫が必要になってくるね」
山後「なるほど、そうなんですね」
抗菌・抗ウイルス性のある金メッキの効果から、メッキ処理に大切な工程の「洗浄」についても教えていただきました。おぼろげながら見えてきた金メッキの実像。それを生み出すスワオメッキさんの中心に、中編では踏み込んでいきます。
Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Atom Munemura (Office-Atom)
Edit: Mayuko Kimura