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  • 2022.11.17
  • 特集

茶こし再考 お店と道具の関係

とらや菓子店

日本海に面する新潟県は一日の終わりに太陽が海の向こうに沈む様子を見ることができ、中でも海に面する柏崎市は夕陽が綺麗に見られるスポットとして、人気のエリアでもあります。その柏崎市で、70年以上続く老舗和菓子店として地域の方々に愛されるお店が「とらや菓子店」。

伝統的な和菓子の製造販売を基軸とし、2020には店内にカフェをオープン。SNSやECなどの取り組みを広げ、若年層のファンが増えている今注目のお店です。そのカフェを運営する上野宏太郎さんに、お店のこと、お茶のこと、そして使用していただいている新しい茶こしのことについて伺いました。

上野宏太郎さん
新潟県柏崎市出身。創業73年とらや菓子店の3代目。2020年に店内に和カフェToRaYaをオープンし、若い世代に人気のカフェとして好評を博している。カフェでは旬の食材を使ったデザートを中心にこだわりのお茶も提供する。

※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

コロナ渦にスタートした和カフェ ToRaYa

山後「とらやさんは、インスタグラムでの発信も積極的にやられていて、若い客層からも人気のカフェというイメージを持っています」

上野「いやそんな(笑)恐縮です。ありがとうございます。和菓子店として70年、店内の半分を使ったカフェスペースはこの9月で2年が経ちます」

山後「2020年!まだスタートしたばかりなのですね」

上野「そうです。今でもいろいろなお店に足を運んでは参考にしたりしています。オペレーションの部分も空間作りも学ぶことばかりで毎回勉強です。うちも始めたばかりなので来てくださるお客さんと一緒にお店を作っていけたらとも思っています」

山後「いいですね。ちなみにカフェ事業を始めるきっかけはどういったことだったのでしょうか?」

上野「色々理由はありますが、正直言えばコロナですね。売り上げも大変だったので。スタートすると決めてから社長の承諾を得て準備して9月のオープンに至りました」

山後「そうだったんですね。社長さんは実のお父さん?」

上野「そうですね。父で2代目です」

山後「じゃあ上野さんで3代目ですね。うちも3代目に代替わりしたところなので近いものを勝手に感じています(笑)」

街に根付く存在として

山後「和菓子の販売形態はこのお店を基盤にして広げている感じでしょうか?」

上野「そうですね。あとはスーパーに卸したり、学校やお寺さんなどから直接ご注文いただいたりすることもあります。お店としても個人としても、地域に対する意識があって。個人としては来年からまちづくり系のNPO法人にも参画する予定です」

山後「そうなんですね。私も燕の街中の新しい動きや飲食店さんと一緒に動く機会が多く、個人としても好きなのでとても共感します」

上野「山後さんの動きも、燕の動きもチェックしていますよ(笑)。とらやのスタンスの”街を盛り上げる”という点は、山後さん、燕の動きと共通していると思います。カフェを作ったからといって、客層もそうですが、この地をベースに商売することを変えるつもりはありません。とらやが繋いできてくれたものは継承していきたいですし、残していかないといけないなと思っています。それまで築いてきたお客さんとのつながりは大切にしていきたいと思っています」

山後「そうなんですね。とらやさんの場合、ここ(柏崎)に根付いてきた長い歴史があるからか自然と街に馴染んでいる感じがやっぱりいいですね」

道具考

山後「上野さんには僕らの新商品であるゴールドメッキの茶こしをテストモニターとして使っていただいておりました。この茶こしの話も伺いたいのですが、上野さん自身の道具に対しての向き合い方を教えていただけますか」

上野「道具論ですね。僕らは和菓子屋なので、基本的にものの使い方や言葉の使い方がそのままお菓子の出来上がりに出る。だからこそ、道具に対してもできる限り丁寧に扱いたい。良いものを丁寧に、というスタンスではあります」

山後「なるほど」

上野「例えば、これまで安価で簡素な茶こしを使っていたのですが、それだと”茶こしってこんなもの”というイメージのまま使い続けてしまいます。そうするとうちが出せるものの上限がそこで決まってしまうのです。それ以上の機能を持っている道具を使わずにいれば、自分たちが作る商品の質も上がらない。なので今回ご提供いただいた茶こしを使ってみて、その違いに驚かされたんです」

山後「ありがとうございます。一つの商品を作るにも素材、道具、作り方と要素があったとして、一要素ごとの掛け算だと」

上野「その通りです。その上で、素材、作る時間、気温などは日夜変化しています。同じ材料を使っても、いつも同じ状態の商品を再現できるわけではない。その中でいかに同じ状態の商品を作るかを考えた時に道具の存在はめちゃくちゃ大きいんです」

山後「面白いですね!ということは、より使い勝手の良い道具を使うことで、素材などの“変数”を統制して商品を作りやすくなるということでしょうか」

上野「そういうことですね。道具のウエイトは大きいと思います」

山後「なるほど。日々そういった調整をされているのですね」

上野「裏を返せば、職人さんで使い慣れている道具の使い方が染み込んでいる方だと、その道具を使うことにこだわりますよね。それも変数となる食材をうまく制御するためには、それを使った方がいいという判断なのだと思います」

山後「理解できます。使い慣れている分、商品が劣化しやすいと当初使用していた条件と異なってくる。その点でも長く同じ状態で使えるというのは飲食店さんにとっては大切なことなのですね」

新しい茶こしを使ってみて

山後「この商品を開発するとき、茶こしを使うカフェの人や飲食店の人が使うイメージを持ちながら開発しました。オープンキッチンで道具やオペレーションが見える環境で使われるシーンですね。そのイメージに対する使い手のフィードバックとして上野さんにご協力をお願いしていました。実際に使ってみてどうでしたか?」

上野「先ほどお伝えしたとおり、前は安価な茶こしを使っていて、金網部分の弱さがとてもネックでした。その点強度・耐久性が全然違っていて使い心地は格段に良くなりました」

山後「ありがとうございます」

上野「以前使っていた茶こしはどうしても壊れるスパンが短いので買い替えのスピードも早かったのです。飲食店の道具は「きちんと汚れが落ちている」ことをまず大切にします。そうするとどうしても強く擦りながら洗う場面が増えてくる。強く擦ると茶こしくらいの強度だと、網の強度が弱いとすぐ壊れてしまうので擦りづらい。ジレンマでした」

山後「その点は言われて納得です。私も自宅で使っていますが、洗う時に何のストレスも感じてなかったです(笑)」

上野「そうなんですよ。扱いやすさが全然違う。スリースノーのプロダクトは基本的に高強度の商品ばかりなので、実は他の商品も先日買いましたよ」

山後「嬉しいです!ありがとうございます!」

上野「毎日使う道具だからしっかり洗う。それを基本にしたときにとても大切な要素だと思いますね」

山後「茶こしを使うユーザーさんの中でも壊れかけの茶こしを使っている姿をよく見るので、そんな方々に使って欲しいなーと思っています」

上野「知らないだけだと思うんですよね。茶こしにこれだけの強度があるってこと自体想像してない人も多いのではないかと思っています」

山後「そうかもしれませんね。もっと頑張って広めます!」

上野「あとは何と言っても見た目ですよね。このカラーリングが大好きです(笑)。私たちが想像している茶こしってやっぱりこっち(ステンレス地のシルバー色)ですから」

山後「そうですよね。実際茶こしに金メッキを施すという挑戦は初めてだったのですが、よかったです。ちなみに用途としては、お茶を入れる以外にも使いますか?」

上野「はい、粉糖ふるいや抹茶を濾すときに使いますね」

山後「そうですよね。とらやさんが出されるスタンダードのお茶メニューは何になりますか?」

上野「基本的にほうじ茶ですね。県北の村上産のほうじ茶を使います。あとは季節限定で静岡産の煎茶を入れる時もあります」

山後「ほうじ茶、いいですね!茶葉が多いのでこの茶こしの形状にぴったりです」

上野「後ほどいれますよ、ぜひ召し上がってください」

山後「ありがとうございます!」

道具のクオリティを生かして商品の質を最大化するという上野さんの考え方に、よりよいものを作り出そうとする飽くなき探求心を垣間見ることができました。これからのお茶とお店の可能性に迫る、続きのお話は後編で。

Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Kakeru Ooka (Office-Atom)
Edit: Mayuko Kimura