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  • 2024.12.28
  • 特集

平ザルの哲学①:ラーメン屋の最適解を考える

わたしたちスリースノーは、ラーメン道具の開発・製造を得意としています。
中でも「てぼ」と呼ばれる麺茹でのザルは多くのラーメン店で使用される一方、今なお名店と呼ばれる店のザルは「平ザル(そば揚げ)」と呼ばれるタイプのザルを使っているところも少なくありません。平ザルは高度な技術が求められる一方それを使うことの利点が多くあり、それを選ぶ理由を持っている方もまた多いのです。平ザルを使う「理由」と、それに紐づくラーメン屋としての「構造」を、新潟・小千谷の名店「手打ち麺処 暁天」細貝貴之さんと一緒に哲学していきます。

細貝貴之さん
株式会社細貝食品の代表取締役であり「手打ち麺処 暁天」(新潟県小千谷市三仏生)店主。「細貝ブラザーズ」で知られる細貝兄弟は、兄・貴之さんが「暁天」、弟・勝也さんが「勝龍」を営み、新潟県のラーメン業界をけん引する存在として、県内外から幅広い支持を集め続けている。両店で使用する麺やスープなどの食材をセントラルキッチンのある(株)細貝食品で製造・加工している。主に暁天では「スパイラル麺(別称:暴れる麺)」と呼ばれる弾力と食べ応えのある麺を看板に人気を博している。

聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

はじまりは〆のラーメン

山後「新潟・小千谷で不動の人気を誇る暁天さん。私たちの道具の開発にもアドバイスをいただく燕の麺’s冨志 森山さんとの繋がりもあり、今回お話いただけるのもとても嬉しいご縁だなと思っています!簡単に細貝さんの経歴をお聞きしたいのですが、お店はオープンしてどのくらいでしょうか」

細貝「今年で16年ですかね。一番最初は夜営業のラーメン屋さんやってました。40年前くらいにラーメン屋をしていて、当時はバブルだったから小千谷は栄えてた。若い人からお年寄りまで関係なく飲んでいたような時代でしたが、朝4時5時まで開いているようなラーメン屋さんが当時はなかったんですよね。

細貝貴之(たかし)さん

そんな折、たまたま空いた物件があったので(当時細貝食品の代表だった)自分の親父がラーメン屋をやってみようと。今の小千谷のサンプラザの近くに構えていたんだけど、あの辺りが当時の繁華街で、いまの10~20倍人はでてたんでじゃないかな。自分が21歳のときに「夜の店やってみろよ」って言われたのがスタートでしたね。父にとって自分は鉄砲玉で思い切りがよかったようで(笑)」

山後「そうなんですね。いわゆる飲んだ後の「〆(シメ)のラーメン」を提供するような感じですね」

細貝「ラーメン屋では酔っ払いとか夜のお店の人とか、いろんな人と話すことが多くて勉強になった。若造の俺と15〜16歳のにいちゃんと2人でお店切り盛りしていました。

そのお店を締めて自分が結婚したタイミングからは、勝龍で弟と2人でやっていこうってなった。冨志の森山くんがお店に来てくれるようになったのは、それからしばらくしたタイミングでしたね」

暁天のはじまり 小千谷の入り口に

山後「そこが細貝さんと森山さんの接点だったんですね。じゃあ昼メインの営業スタイルに業態転換をしたのはそのころなんですね」

細貝「そう。それで16年前に工場(細貝食品)のほうも軌道に乗ってきたので2店舗構えてみようかなと。当時は周りに畑しかなかったから、集客の面でちょっと大丈夫かなって不安がありました」

山後「国道沿いでアクセスがいいので、直感的には入りやすそうな気がしますが。

国道沿いに店舗を構える立地

細貝「当時は人の行き来があまりなかったんです。建物も道を挟んで向かい側にベイシア(スーパー)が1件ポツンとあるだけ。そこが不安要素で。ただ地理的には長岡と魚沼の間にあって、今は小千谷の入り口みたいな位置づけになっています。ご来店されるお客様は小千谷市民よりも市外勢のほうが多いですね」

山後「そうですよね、ずっと途切れずにお客さんが並んいでる印象があります。すごいな…といつも思っています」

地域を考える

山後「直近では暁天さんも関わっている小千谷の「麺フェス」というイベントもありましたね。そんな動きを見ていると小千谷を盛り上げたいっていう空気感が伝わってきます。自分たち燕とも共通する部分があって、地域を盛り上げたいっていう思いがあるのかなと思いますがいかがですか」

細貝「それはありますね。でも思いだけでは続けられないこともある。もちろんお金もかかるし、考え方も十人十色。お店をやっている以上お客さんがどれくらい来てくれるか、何杯出たのか、世の中が認める形になっているかどうか無視できない。こういったイベントもどうつなげて、続けていけるかっていうのが大事だと思っています。

そして単に「続けられるか」だけではなく、「進化・発展しながら続けられるか」が大事な視点と考えています。尻すぼみになってしまうとやめた方がいいという意見だってある。小千谷は行政・市役所が主導してくれるので心強い面はありますね。飲食店だけだとなかなか難しい部分もあるので」

山後「大事な視点ですね、共感します。飲食店のつながりでいくと小千谷や近隣地域のお店同士でコミュニケーションを取ったりしていますか?」

細貝「ラーメン屋さんはフットワーク軽いので、コミュニケーションはとってる方だと思いますね。近すぎなくらいです(笑)。ただラーメン屋さんとしかしゃべらないかといえばそうではなくて、他の飲食店の人とも異業種の人とも話すと逆に勉強になったりはしますね。いまここでこうして道具メーカーと話している場面もね、勉強になっている」

山後「そうですよね。お店を構えている以上、自ら外に出ていく営業は難しいからこそ必然的に地域のつながりを考えていくような気もします」

細貝「大事ですね。地域内でのつながりももちろんですが、市外のお客さんも多く、つながりってどう発展していくかわからないんですよ。一つ言えるのは、全てのつながりがはじまるのはここ(店の中)だということ。だからこそ、店は空間を作ってお客さんと喋ることを大切にするべきじゃないかなと思っています」


加水率50%以上の自家製麺

山後「貴之さんの作るラーメンの話に入っていきたいと思います。暁天さんといえば店名にも入ってるように自ら製麺されている思いますが、改めてどういう作り方をしているかお聞きしたいです」

細貝「うちの会社(細貝食品)のセントラルキッチンで作っています。製麺機を使いますが、麺は包丁切りにしています。うちの会長が考案した麺のレシピをベースにしていますが、製麺機を導入するときにメーカーの人からアドバイスもらったり相談したりしながら勉強させてもらいました」

山後「なるほど、麺の成分についてはいかがですか?」

細貝「多加水麺を特徴にしていて、加水率が50%以上です」

山後「50%以上!?ちょっと聞いたことないくらいの含水率ですね、びっくり。それだと作るのも難しいのでは…?」

細貝「そうですね、工夫は必要でした。この高い加水率の麺を作るには製麺機のミキサーから変えないといけないんです。従来の機械打ちの製麺機のミキサーだと、加水率40%にしても生地が熱を持ってしまうんです」

山後「なるほど。だから普通の設備・工法では難しいのですね」

細貝「当時、会長はうどんの製法で作っていましたね。うどんを練って延ばすのと同じように練っていきます。練り機で切った段階の生地を切り分けて、角度を変えながら打つ。いろんな方向から打たれることで、グルテンが強化されてコシがでます。加水しすぎても切れてしまうので寝かせながらやらないといけない。さらに波型ローラーに生地を噛ませるときにも角度を変えてあげる」

麺の性格を生かす

細貝「そして、この生地を暁天では縦に切ります。切断したときにグルテンの繊維が切れないようにするためです。そうすることで麺を食べたときにグルテンを噛むことができるので、食感が段違いになります。グルテンは網の目で広がっているから、網の目に沿って歯ごたえが残るように切るという具合です。手打ちと同じ理屈です」

山後「なるほど、一方向に伸ばして切っちゃうとグルテンを伸ばした角度に対して垂直90°の方向で切っちゃうから、四方八方にのばしてなるべく繊維を切らないようにしているんですね。あの食感を実現するための工夫ですね」

細貝「あとは切った後の熟成も大事。いまも72時間くらいかけて、切る前と後で熟成させてます。これも試行錯誤してたどり着いた作り方でした。ちなみにつけ麺はうちの麺の特徴がよく出るので人気ですね。開店2年目ではじめたところ飛ぶように出てました(笑)」

山後「製麺のこだわりゆえに、麺の性格が強く出るラーメンになりそうですよね」

細貝「そうですね。うちは麺の主張が強いので、スープもかなり主張しないと麺だけ食べているようなラーメンになってしまう。太くて歯ごたえがあってかまなきゃいけない麺だから、麺とスープのバランスが大事。麺に負けないスープを作るように意識しています。たとえば背脂に関しては(燕三条系のやり方のように)ちゃっちゃっと振り落とすのではなく、背脂を鍋で炒めて背脂自体に味をつけます。このやりかたは30年前くらいに始めました」

山後「背脂一つとっても違いが面白いですね。背脂は本来まろやかさを増す要素であり、燕三条のラーメンはそれによってまろやかさが増し加えられています。それを麺とのバランスを考えて、まろやかさのエッセンスではなくスープの主張を強めるエッセンスを加えているのですね」

細貝「そうそう、背脂自体にはバター&玉ねぎ味とか、山椒&豆板醬味とか違いをつけて味付けしています。まあ、燕三条のまろやかな背脂も俺好きなんだけどね(笑)」

山後「そう考えると、順番としては麺から考えてスープを構成するという考え方ですよね」

細貝「そうです。麺が何種類もあれば別ですが、基本は麺1種類でスープも1種類ですので、麺を軸に考えることができますね」


長年の試行錯誤の末に生み出された、暁天さんの麺。そこから組み立てるラーメンの構造も理にかなった表現なのだと納得させられました。次章では細貝さんの平ザル哲学の核心に迫っていきます。

次章「平ザルの哲学②」はこちらから
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