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  • 2024.08.07
  • 特集

デザイナー発 オランダのお茶屋さん

17世紀に世界の覇権国家となったのはヨーロッパ貿易の中心地、オランダ(The Netherlands)でした。自由主義的な政策を基盤に、モノ・金・人が集まる国際都市へと変貌した歴史を有する国でもあります。その中心地であったアムステルダムで、日本のお茶の魅力を広めるべく歩み始めたお茶屋さんがいます。デザイナーとしての本業を今も続けながら新たな挑戦を始めるMATSU-CHAのKadlecさん夫妻(JoshuaさんとMarinさん)にお話を聞きました。オランダで敢行したインタビュー、3編にわたってお送りします。
※本取材は2024/2月(MATSU-CHA事業ローンチ前)に行ったものであり、取材当時の状況をもとに記事を執筆しております。予めご了承ください。

Joshua Kadlec さん
長野県安曇野市生まれ。デザイン事務所「STUDIO-MATSU」の共同設立者であり、ロゴ製作などを得意とするグラフィックデザイナー。本業で培われたクリエイティブな視点から、日本茶の新事業「MATSU-CHA」を立ち上げる。2024年日本茶インストラクター協会認定 「日本茶アドバイザー」取得。

Marin Kadlec さん
大阪府大阪市生まれ。夫のJoshuaさんと共同でSTUDIO-MATSUを設立し、同じくデザイナーとして活躍中。イラストレーターでもあり、動画デザインまで幅広く手掛ける。自らお茶にハマった経験をもとに日本茶の知見を増やし、日本茶アドバイザー資格も取得。現在2人の間には2児のお子様がおり、育児をしながら多事業を展開する日々を送っている。

デザイナー、お茶屋さんになる

山後「お二人は現在オランダに住まわれていますが、生まれは日本なのですね」

Marin「そうですね、私は大阪で生まれ育ちました。今でも日本に帰国、特に大阪に帰省すると途端に関西弁に戻りますね。夫のJoshuaの影響でだいぶ標準語になりましたが。(笑)」

Joshua「私が長野の安曇野で育ちましたので、その影響ですね(笑)」

山後「確かにそれだと言葉がうつりますよね(笑)。もともとデザイナーとしてのお仕事を手掛けていらっしゃったお二人ですが、お茶屋さんとしての事業をこれからスタートするということで、きっかけは何だったのでしょうか」

Joshua「デザイナーって他の人の夢をサポートして形にしていく面が強いんです。でも、自分たちのために自分たちで育てられる何かが欲しいよねって」

Marin「お茶屋の開業を進めてくれた友達は「やってみたら!」と背中を押してくれたので、とりあえず挑戦してみようっていう気持ちで始めました。そしたらひとつひとつのことを学ぶのがとても楽しくなってしまって」

Joshuaさん

Joshua「そんな中で、一度仕事で京都の抹茶カフェのロゴを作ったことがありました。日本人の抹茶に対する考えって、「美味しい飲み物」というより敷居の高いものっていう認識じゃないですか]

山後「分かります(笑)」

Marin「抹茶スイーツとかはとてもポピュラーですけどね。抹茶を飲むこと自体は“経験”みたいに捉えられていますよね」

Joshua「それまでは自分も同じような認識だったのですが、そのカフェで抹茶ラテとほうじ茶ラテを飲んでみたらとても美味しく、このお仕事をきっかけに 抹茶を好きになったのですが、オランダに来てからおいしい抹茶に出会えなかったのです。売られている抹茶の商品紹介と、実際飲んだ抹茶の味や品質にズレがあったり、そもそも日本や日本茶に対する情報が間違っているように感じました」

Marinさん

Marin「オランダの人だとお茶の苦み自体が苦手っていう人も多いですが、そもそも抹茶自体に対する認識のズレがある。苦みが「品質の悪い抹茶の象徴」として受け取られがちなのですが、人によって抹茶のおいしさの感じ方は違っていて当たり前ですし、そこがいい部分と思っています。その認識がズレていることで日本の抹茶に対する評価みたいなものまでズレてしまっているような気がしますね」

山後「間違った情報が伝わってしまうことへのもったいなさ。それが根源のような気がしますね」

Joshua「もったいないというか悔しいっていう感情が強い。日本人だからこそ、正しい情報を流して受け取ってもらいたいという気持ちがあります」

Marin「当初はお茶に対するこだわりよりもたくさんの人にお茶を飲んでほしいという思いが強かったですね。こだわりすぎて敷居が高くなってしまうのは避けたくて。でも、勉強していくにつれて自分たちがそのコンセプトに納得できなくなっていきました」

山後「自分たちが勉強してお茶の世界を理解したからこそ、純粋に他の人にも知ってほしいと思うんですよね。僕らでいうラーメンの世界と似ています(笑)」

納得する茶こしとの出会い

Marin「この茶こしに出会う前、燕がものづくりのまちであることを知らなくて調べてみたら本当に特異なものたちがたくさんあって、驚いたのを覚えています。スリースノーの茶こしを見つけたときに、こんな茶こしがあるんだなと思いました」

山後「そう、そのお話が聞きたかったんです。どうやって茶こしにたどり着いたんですか?」

Joshua「実はニューヨークのお茶屋さんのSNSで茶こしを見つけて存在は知っていたんです。この持ち手の曲線が独特じゃないですか。ずっとどこで作っている茶こしなのかなって気になっていて、そこから会社をひとつひとつたどっていきました。最初は茶こしは安いものでもいいかな?と考えていたんですが、自分たちが気に入ったものを見つけるのがなかなか難しくて。だけどやっぱり、せっかく他の道具もこだわりの日本製で揃えているのだから、茶こしも自分たちの納得のいくものを見つけようとなりました」

Marin「たまたまスリースノーの茶こしを見つけて、ただの日本製ってだけではない本物に出会えたような気がしました。でも、どうしてもそれでなければならない理由が分からなくて」

山後「自分たちを納得させる理由が必要だったんですね」

Joshua「こだわって探した茶筒とも光沢の感じが合っていて、自分たちが選んだ道具と全体的な雰囲気がマッチしました」

Marin「茶こしのメッキが特殊と聞いているのですが、やはり難しい技術なのですか?」

山後「細かいメッシュの茶こしをメッキ加工するのって汚れやゴミが入りやすくてとても難しい。メッキ前の洗浄の工程もたくさんある手数のかかる作業、商品ひとつひとつに真摯に向き合いながら取り組んでくださっている協力企業さんの技術によってできています。開発当初は1個作るだけなら綺麗にできたのに、量産してみたらうまくいかなくて。トライを何度も重ねてもらい、メッキする前の洗浄を工夫することになりました。ほかの工場が真似しようと思ってもできないと思います(スワオメッキさんのインタビューの模様はこちらから)」

Marin「そういうのをすごく知って、すごく伝えたいです。オランダでもあんこを濾す用の網を探したことがあったんですが、そもそも細かくて丈夫なものが見つかりませんでした。スリースノーの茶こしはレベルが全然違うんですよ!一度触ってみたらわかる。でも、自分も周りの人もどこが特殊なのか説明しないとわからないので。写真だけではその良さがよく分からない」

山後「よく写真見て連絡いただきましたね(笑)!触ってもらえばわかるのですが、メッキがかかっているものは交点部分がホールドされるので、かかっていないものよりも網の強度が高い。すごく丈夫になります」

「感情を動かす」道具

Marin「正直、メッキの茶こしは値段が高くなってしまうのでステンレスのもののみを仕入れようかと迷いましたが、もう実物を見てみたらこっちしか扱いたくないです! (笑)」

Joshua「僕は当初からずっとメッキのものにしようって言ってたんですよ。(笑)オランダにも同じような見た目の茶こしはあります。でも、周りのお茶屋さんと違いをつけようかなって考えたときに、スリースノーの茶こしなら日本製っていうところでも色で差別化もできる。茶道具を選ぶときにはもちろんクオリティも大事だけれど、僕らが大事にしているのは「使っていてテンションがあがるか」という部分です」

山後「それは大事ですね…!」

Joshua「自己満足かもしれないけど、道具を使っていて「使っている自分がかっこいい」みたいな感覚が大事だと思います」

山後「分かります。道具を使いたいから、抹茶を淹れてみようかなっていう入り口でもいいですしね」

Joshua「コーヒー業界も同じで、最低限淹れるだけなら本当は必須ではない道具もいっぱいあります。でも、テンションが上がる道具があることでおいしいコーヒーを淹れる自分が好きっていうのを感じることができる、感情が動く」

Marin「コーヒーが豆から挽いて淹れるまでに手間がかかるように、抹茶も同じような側面があります。面倒といえばそうだけど、抹茶をいれる時間そのものを楽しんでほしいという思いがあります。パソコンしながらなんとなく飲むっていうのは、もったいない。ただ飲むだけではなく、オランダの人にも時間そのものを楽しんでほしいと願っています」

山後「核心ですね!淹れる楽しみがありますよね」

Joshua「だからこそ、使っていてテンションがあがる道具を集めるっていうのはとても大事です」

Marin「作り手のパッションも大事です。売れるから大量に作られているよりも、オタク気質な情熱のある作り手がいいし、自分たちもそのくらい熱を持って説明したいと思っています」

抹茶の魅力はたくさんあれど「抹茶をいれる時間そのものを楽しんでほしい」という言葉の通り、「淹れ手が楽しめる」抹茶の考え方に深く共感しました。そして道具は楽しむ時間をつくる一つの要素であると、その可能性を話していただきました。2人が描くこれからの展望は第2章に続きます。

Interview, text and photo : Hayato Sango / Shizuku Ishijima (ThreeSnow)
Edit: Mayuko Kimura

続章<第2章>はこちらから

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