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  • 2024.12.28
  • 特集

平ザルの哲学②:人体動作から考える

細貝さんが考える「平ザルの哲学」第二章は、道具を使う人から考える平ザル理論です。知られざる道具論の核心を深堀していきます。

細貝貴之さん
株式会社細貝食品の代表取締役であり「手打ち麺処 暁天」(新潟県小千谷市三仏生)店主。「細貝ブラザーズ」で知られる細貝兄弟は、兄・貴之さんが「暁天」、弟・勝也さんが「勝龍」を営み、新潟県のラーメン業界をけん引する存在として、県内外から幅広い支持を集め続けている。両店で使用する麺やスープなどの食材をセントラルキッチンのある(株)細貝食品で製造・加工している。主に暁天では「スパイラル麺(別称:暴れる麺)」と呼ばれる弾力と食べ応えのある麺を看板に人気を博している。

聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

平ザルは「体幹で上げる」

山後「麺の強さはお話を伺った通りですが、暁天さんの麺は「暴れる麺」と言われていますよね。それは何に由来する表現なのでしょうか」

細貝「それは平ザルで麺上げしているところを見れば一目瞭然です!普通に考えると細麺で柔らかい麺を平ザルで上げるのは楽なんです。一般家庭だとパスタとかでやってみるとわかりやすい。細い麺をザルで上げる方が太い麺を上げるよりも簡単に感じると思います。

逆に太い麺だと難易度が上がる。うちみたいに太麺で大盛り300gの麺を21cmの平ザルで上げようとすると、正直いっぱいいっぱいですね。平ザルいっぱいに麺が乗った状態で、ザルが少しでも傾くと麺が落ちてしまう。仙骨を起点にして体幹がしっかり立っていると、首もまっすぐ伸びて姿勢が正される。麺上げもうまくいきます。

体幹が立ってないとザルから麺が落ちるんですよね。姿勢を正しくすることがうまく麺を上げるコツです」

山後「なるほど、姿勢ですね。暁天さんでは21cm(外径)の比較的小さいサイズをずっと使っていただいていると思いますが、サイズ的にはちょうど良いのでしょうか」

細貝「そうだね、小さい分動きの「速さ」が出やすい。俺はやっぱり平ザルを振り回すので。自分にとって平ザルは「武器」なんです。「自分の身体の一部」という意味での武器。その武器である以上、サイズ感はとても大事ですね」

山後「細貝さんがこのサイズを選ぶのにはそんな理由があったんですね!」

平ザルは「握らない」

山後「いくつかうちで作っているタイプの平ザルを持ってきました」

細貝「うちで使ってるのはこの木柄のタイプだよね。30cmくらいの長さにしていて、ザルの角度も少し自分アレンジしてつけています。持ちやすくて使いやすい。それからありがたいのが、ザルが強い!頑丈であることに越したことはないですよ」

山後「そう言っていただいてありがたいです!」

細貝「昔は持ち手が竹製で、それを長年使っていたユーザーからしてみると同じような平たい持ち手に対しては違和感がなく、太い厚みのある持ち手の方が違和感を感じるはずです。しかし自分の感覚だと、平ざるを「握る」という動作になるので、あまり力を入れずにふんわり持てるのは実は木柄で厚みのあるタイプだと思っています。握りやすくて力を入れなくても良い。強く握ってしまうと動きが固く鈍くなるけれど、軽く握ると動きも軽やかになります」

山後「なるほど、先ほどおっしゃっていたように体幹で麺上げするという考え方からすると手に力が入っていると全体の力感のバランスが崩れてしまうということでしょうか」

細貝「そうです。自分も20代〜30代の頃はマッサージに毎週通うくらい左肩を酷使するようなフォームで上げてましたけどね。一つの身体の部分を酷使すると他のバランスも崩れて弊害も出てきてしまいます」

山後「そうやって体の動きを考えはじめると、身体動作のメカニズムに合わせてどういう道具であるべきかっていうのが見えてきますよね」

細貝「そうそう、そこをまず考えることが大事だと思いますし、そういう道具があったら使い手側としては助かります。自分も最初は平たいハンドルに慣れて角型の木柄が握れなかったけど、3日くらい握ってみたら角木柄のほうが自然と握れるなって気づいた。こういうのは個人の感覚なんだけどね。「握る」っていう動作を一つとってみても「自然に動ける感覚」を軸に考えることですね」

道具が「手の延長」になるために

山後「自然と力が入る体の状態をつくることが大事なんですね」

細貝「そうそう、力を入れるべき時にね。そのためには身体的にも精神的にもリラックスできる「ストレスにならない動き」が大事です。そのために呼吸も意識していきます」

山後「先ほどからお話いただいている「武器」という概念にとても納得感があります」

細貝「「武器」は「手の延長」なんです。体幹がしっかりしていると指先まで神経がつながる。すべての身体動作で体幹がいいポジションでいると、野球にとってのバット、テニスにとってのラケットみたいに自分の手の一部になる。

ラーメン屋にとっても同じで「どうしていま麺がこぼれなかったのかな」と見直したときに体幹の重要性に気がついたんです。ちなみに、このストレッチぜひ一緒にやってみてほしいんだけど…ちょっと足組んでみてくれるかな」
(インタビュアーもカメラマンもストレッチをはじめる)

山後「この姿勢けっこうキツいですね!」

細貝「お、けっこう柔らかいね(笑)このストレッチは大殿筋に一番効く。自分は厨房に立ち続けるとここ(お尻)が固まるので時々こうしてストレッチしています。やらないと気づかない人も多いけど、やってみると筋肉が凝り固まってるのに気づけるので、ぜひやってみたらいいですよ」

山後「これ自分でもやってみよう(笑)」

細貝「筋肉ひとつひとつぜんぶ動きが違うから、ほぐしてあげることが大事だよね」


「道具は武器である」とは真に道を究める者の言葉だなと感じました。物質的には二個体に分かれるもの、それが自分の手の延長となり、体とつながる。道具も自分の一部になるために、体の中心部分の動かし方や呼吸まで道理がつながっていることに、新たな学びがありました。ザルだけでない、厨房内の理論について次の章でも深堀していきます。

次章「平ザルの哲学③」はこちらから
前章「平ザルの哲学①」はこちらから

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