プロの調理人が教える効果的なザルの使い方 前編
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ザルを使うこと
調理道具としてのザルには、果たしてどんな価値があるでしょうか。調理道具の中でも脇役的な存在であり、各家庭での使われ方や使われる頻度も様々。素材の衛生管理や保管能力が高まっている現代では、ザルの必要性はいったいどこにあるのか。スリースノーのザルを日常的に使ってくださっている2人の料理人に、効果的なザルの使い方を聞きました。
大橋和明さん
燕市で120年以上続く老舗仕出し・割烹料亭の明治屋(http://omotenashi-meijiya.com/)五代目。自店に戻る前は大阪の有名和食料亭で7年の研鑽を積み、明治屋の代表へ。元々映画が大好きで、現在燕三条フィルムコミッション(http://www.tsubamesanjo-fc.com/)会長として、燕三条地域の撮影支援も行う。「料理の構成も映画と同じくストーリーがある」という信念を持ち、その日の食材やお客さんと向き合いながら腕を振るう。厨房内で使っているザルだけでなく、日本酒の酒器もスリースノーの商品をご愛用いただいている。
森山史朗さん
燕市富永のラーメン店 麺’s冨志(https://www.instagram.com/fuushi1001/)代表。実家は建築用金具などを製造する金属加工メーカーであったが、自身は料理人の道を志し2007年(当時27歳)自店を開業し現在に至る。自店を営む傍ら、燕の農家、飲食、道具メーカーをチームとして燕の食文化を発信する団体TSUBAME×ACTIONS(https://tsubamecrossactions.jp/)代表も務める。店内で使われる道具はメイドイン燕のものにこだわり、スリースノーのてぼ、ザルも厨房内で活躍中。
※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)
和食で大切なこと
山後「今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。早速ですがプロの調理人であるお二人にザルという切り口でお話を聞かせていただきたく思っております。よろしくお願いいたします」
森山さん(以下、森山)「ザルねー」
大橋さん(以下、大橋)「穴を開けたパンチングのものもあるけど、あのタイプは作ってないの?」
山後「パンチングのタイプは板材を材料として使います。ザルは金網の線を織って作るので、そもそも製法がまるで違うんですよ」
大橋「そうか、つまりボウルに穴をあけていく工程になるのか」
山後「その通りです。ちなみに大橋さんに改めてお聞きしたいのですが、料理の世界に足を踏み入れたのはいつからですか?」
大橋「18歳くらいからなので今年で28年になるね。ずっと和食で。専門学校の先生には洋食の世界に行けって言われてたんだけどね(笑)」
山後「え?そうなんですか。意外です、理由はなんだったんですか?」
森山「顔やろ?(笑)」
大橋「わからん(笑)最終的に和食を作ることになると分かっていたから、学生の時には洋食もやってみたいなと思ってたんだけど、親父に大反対されてね(笑)」
山後「森山さんの料理の入り口は?」
森山「俺の場合は実家が金属加工のメーカーで、料理とは無縁の環境だったんだよね。でも、ラーメン屋になりたくて料理の専門学校に行き始めた。ただ先生には和食をやった方がいいと言われてその時に和食やり始めた」
大橋「和食の世界は芽が出るまでにちょっと時間がかかったり、地道な努力の積み重ねが必要だったりするけど、(森山)史朗の場合はその辺の性格を先生が見てたんじゃないかな」
森山「そういうのは得意かも。だけど俺が和食ではなくてラーメンを選んだのは、自分が万人向け商売が好きだっていう意志があったから。高校生の時に部活終わりに仲間と食べたラーメンの記憶が強く残っていて、お金のない高校生でも自分たちの財布からお金を出して“みんなで食べる”ってのが自分の中での外食の原体験。燕も食堂のようなお店が多いよね、あのイメージ。俺の中では外食は日常にかなり近いものだと感じているよ」
素材を生かす
山後「なるほど。ラーメン屋を目指すのにはそんな経緯があったんですね。ちなみに和食をやってた期間はどれくらいですか?」
森山「5年」
大橋「長いよね(笑)」
森山「まあね(笑)俺も和食から入ったから、素材をいかに大切に扱うかという点はかなり意識の中にあったので、ラーメン屋をやっている今でもそこは変わってないね。素材から作るのが当たり前だと思ってる」
大橋「それは大きいよね。兄弟が違う料理のジャンル(中華、フレンチ)をやっているからその違いとしてよく言われるのが“和食は引き算だ”ということ。食材本来の良さ、性質としっかり向き合って最適解を見つけ出す作業こそが、和食の料理人の仕事なんだと思う」
山後「素材が始点になる、というのが和食の基本的な考え方なんですね」
大橋「そうだね。仮に同じ種類の素材でも、状態は常に同じではないからそれに応じて調理していくことは大切だよね」
森山「完全に同意だね」
おいしいお米を炊くコツは“水分量”にあり
山後「ここからザルの話を聞いていきたいのですが、特にザルは水気を切る作業で使われる道具ですが、何か普段気をつけていることなどありますか?」
大橋「ザルをよく使う作業で言うと、たとえばお米を研ぐ作業かな。最近は精米技術も進んでるから2〜3回水を変えて洗えば十分なんだけど、米の表面を傷つけないようには気をつけているね。傷つけちゃうと炊き上がった時に米が傷ついていることもある」
山後「なるほど」
大橋「ザルの状態が悪いと自分が余計に力を加えて傷つけそうになるし、その辺はこだわりが出るとことだよね」
大橋「あとは吸水させる時間ね。夏場と冬場で吸水時間も変えながら、一度ザルにあげて冷蔵庫で保管して、ベストなタイミングを待って炊く。すぐは炊かないんだ」
山後「へえーー!その工程、初めて聞きました。もう少し詳しく教えてください」
大橋「お米は研いだ後に吸水させるんだけど、冬場から夏場にかけて使うお米も新米から古米へと変わっていく。お米に含まれる水分量も変わるし、冬場は温度の関係で吸水しづらいっていうこともあって、吸水時間を変えているんだ」
山後「新米から古米。確かに、あまり家では意識したことはありませんでした」
大橋「お米の状態に合わせて吸水時間を管理して、お客さんが来るベストなタイミングで炊き始められるように、その後はザルで水を切って、濡れ布巾かラップで覆って保管しておく」
山後「面白い!吸水時間は長く吸水させすぎてもやっぱりダメなんですか?」
大橋「そうだね。べちゃっとなるか割れやすくなる。だから適切な吸水時間というのを意識して炊くようにしているよ」
山後「森山さんもその辺は同じ見解ですか?」
森山「全く一緒だね。その時間、工程を調整するとお米の上がりの状態が一定になるからね。うちの場合はそのあと一日冷蔵庫で寝かせるんだ」
山後「あ、そうなんですか」
森山「うちの生命線はチャーハンだから。ちょっとでも柔らかくなると嫌なんだよね。だからお米を炊く作業は他のスタッフには任せないで俺がこだわってやってるよ」
山後「ラーメン屋だけど、お米にもこだわっているんですね!」
森山「俺は他のラーメン屋に行くとライスの出来具合がすごく気になっちゃう(笑)」
大橋「お寿司やさんなんて、わざわざ古米を使うところもあるからね」
森山「確かにそうだね。今は変わってきたけど、少し前はあえて古米を提供するところも結構あったよね」
大橋「ネタを引き立たせるという面では珍しい話ではないんだよ」
山後「なるほど、必ずしも甘くて柔らかいお米の状態が共通して適しているわけではないんですね。勉強になります」
大橋「今の時代は精米技術も炊飯器などの道具も発達してきているから、家庭の中ではお米を研いだり水分を調節したりってことに気を遣わなくて良くなったよね。人の感覚が必要なくなってきたというか。ただ、料理人である俺たちは他の料理の要素との兼ね合いも考えながらお米の状態を調節するから、炊く前のお米の水分量にはこだわっているね」
山後「炊く前のお米はしっかり水が切れていて、自分の思い通りの水分量になっていることが重要なんですね」
大橋「そうだね。自分の描いた通り気持ちよく仕事ができるためには、それを実現する道具が必須。切れ味に気を遣う包丁と同じような感覚で、ザルの良し悪しもお米研ぎの時には繊細に考えるね」
プロの料理人から見たお米の炊き方や料理への向き合い方は、食材に対して驚くほどに細やかな気遣いが隠されていました。インタビューの内容は後編に続きます。
Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Atom Munemura (Office-Atom)
Edit: Mayuko Kimura
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