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  • 2024.07.20
  • 特集

Bar Strainerの条件

第一章では菅野さんとSalon de fableのこと、バーストレーナーの開発のきっかけについて話していただきました。今回は開発したバーストレーナーの道具論を深掘りしていきます。

菅野登仁雄さん
東京・赤坂のサロン「Salon de fable」店主でありバーテンダー。前職でサントリー(株)グルメ開発部に従事していた頃からスリースノーとのやり取りが始まり、バーストレーナーを共同開発。お店のバータイムはフレーバ―チューナーを使った「コーヒービール」やバーストレーナーを使って様々なフルーツカクテルが楽しめるほか、昼間のカフェタイムは軽食やコーヒーが楽しめる。

聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

果肉を濾す

山後「ストレーナーを毎日使っていて使用感はどうですか?」

菅野「すごくいいですよ。まず必要な果肉感が抽出できるというのはとてもいいですね」

山後「ありがとうございます!メッシュにこだわったのでその点は菅野さんの理想に近くなっていると思います」

菅野「それから形状的にすごくよかったなと思うのが、底部の平面。フルーツカクテルをつくるときって果肉がストレーナーの中で滞留して結構時間がかかります。もっと時短でつくるにはバースプーンでかき混ぜながら底面で濾すこともあるんですよ。このとき底が平らになっていることで非常に短い時間で濾せる。

最初はもっと尖っていたほうがよりスタイリッシュでいいかもしれないという話をしたんだけど、洗うオペレーションを考えると、先端がとがっていると洗いにくい。試作段階のものを3か月くらい試してみたのですが、結果的にこの底面が平たい形だとスポンジも入るし非常に洗いやすかったです」

山後「それはよかったです。底を平たくしている形状というのは、うちのザルに共通している部分ですね。それから洗いやすさでいうと、従来のザルの構造のように金網を板枠で挟み込む構造にはせず、網とフチを溶接して一体化しました」

菅野「これもよかったポイントでしたね。僕らも言われるまで気づかなかったけど、もし網のフチが挟み込まれていると汚れが溜まってしまう可能性がある。この形状だと、汚れていても一目瞭然だし、なにより洗えるっていうね。その利点が非常にあります」

山後「ありがとうございます!」

菅野「あと使っていていいなと思ったことして、取手の向かい側に引掛けがあることですね。

シェイカーなどに引掛けて(持ち手を持たずに)濾す作業があるときには先端の引掛けが効いて、どのサイズの容器に対しても安定してくれる。これも使っていて発見した良さでした」

洗いやすさ

山後「食洗器を使うことはありますか?」

菅野「ありますよ。昔だと手洗いでやっていたけど、今はワンオペになることもあるので、洗い物は溜めて手が空いた時に一気に食洗器にかけますね。

このストレーナーは食洗器一発できれいになりますよ。果物の細かい繊維だけさっと落として、洗浄機のかごにガサっと入れて回すだけで一気に落ちる。これは相当楽ですよ」

山後「それは楽ですね!食洗器にかけても安心で洗いやすいっていうのは開発の重要なテーマもあるので、その点についてお話を聞けてうれしいですね」

菅野「大きいお店だと必ず食洗機はあるから扱いやすいと思いますね。それから商品の強度でいうと、結構しっかりしているので安心できます。例えば営業中、急いでいるときにシンクでストレーナーをバンバンっと叩くことがあります。メーカーからしたら嫌かもしれないけど(笑)。強度が低いものだとすぐに歪みが生じることがありますが、このストレーナーは今のところ大丈夫なので、強度的にもちょうどいいです」

山後「最初のプロトタイプのハンドルは真っ平らだったんですけど、いまのタイプだと少し折り(カーブ)をつけて丸みをつけたんです。金属に少し折りをつけてあげると、強度を高めることができる。そういうところも開発の段階で考えました」

菅野「なるほどね、このカーブで強くなるんだ。素晴らしい」

サイズ

山後「ほかのストレーナーと比べると大振りに感じますか?」

菅野「大きさはこれでちょうどいいと思いますよ。これ以上大きいと大ぶりすぎるし、小さいと容量が足りなくなる。ジャストサイズだと思います」

山後「ドイツで行われる展示会でヒアリングした時には、小さいサイズを求める声もありました。小さいストレーナーを使うスタイルもあるのでしょうか?それとももともと使っているサイズがたまたま小さいから、ということでしょうか」

菅野「後者の理由は一理あるかもしれないです。一つ言えるのは、僕が作っているフルーツカクテルは一杯の容量が比較的多めになるので、シェイカーから出てくる容量も大きく、今使っているストレーナーのサイズが必要なのですが、一杯の液量が少ないスタンダードカクテルに関してはここまでのサイズが必ずしも必要ではないのかもしれないですね」

山後「なるほど、フルーツカクテルではある程度の容量が必要になる。これがサイズを決める根拠だったのですね。勉強になります!それにしてもたくさん褒めていただいてすごく嬉しいです(笑)これから商品を広げていく展開でもぜひご協力お願いします!」

菅野「とても良い商品だと思いますよ。もちろん協力します」

色気という概念

山後「さっきの話に戻るのですが、「色気」という概念がとても面白いなと思って。自分たちザル屋の関連で言えば、ラーメン屋さんもお茶屋さんも最近は提供する人の手の先、所作をよく見られるようになってきました。この部分でいえばバーの世界は特にそうですよね。バーテンダーの方はそういった点も意識されているのでしょうか?」

菅野「そうですね。バーの形態によるので一概に断言はできませんが、カクテルバーとしてきちんとやっているお店では「所作」は大事な要素として考えているんだと思います。「所作」は「美味しく魅せる」っていうことにつながりますしね。見えないところで作られたものが出てくるのではなくて自分のオーダーしたものが目の前で出来上がっていくのを見ているのもバーの一つの楽しみですよね。

その時に使われる道具というのは「色気」があったり「スタイリッシュ」である空間の要素でなければならない。シェイカーもストレーナーも余計な細工がなく、シュッとした感じの道具である方が良い。製品強度も確かに必要なのですが、スタイリッシュであるということがバーテンダーにとっては重要です」

山後「まさに機能美であるということですね。外食産業のいろんなところに通底するテーマでもあって、例えばうどんチェーンの丸亀製麺さんがすべてを自動化せずに麺を目の前でゆで上げるように、「目の前で作ってくれる」ことがお客さんの喜びや楽しみにもつながっていきますよね。その意識も近いのかなと」

菅野「その通りだと思います。近い意識でしょうね」

山後「現代においては食が多様化して、ファストフードやコンビニの登場で、ある種「作業のようになってしまった食」の形もあって、それが失ったものの反動みたいなものがあるような気がしています」

店にあって家にないもの

菅野「お客さんの目線からみても、職人の使う道具ってなんとも言えないプロ仕様って感じのカッコよさがあると思っていて、あれは家庭の中にはないんですよね。お茶の世界でも、バーの世界でも同じだと思いますね。「プロ仕様の道具」のカッコよさ、みたいなもの。

僕が意識しているのは、家庭にあるものはお客さんの見えるところにはなるべく置かないようにしています。一個一個のものの色調を合わせて統一感を出すことがそのお店のこだわりになって、外食の良さにつながると思いますね」

山後「確かに、この空間に急にプラスチックの桶とかあったら「あれ?」って違和感に思いますね」

菅野「そうそう、だから例えば手が痛いからってストレーナーのハンドルに赤いラバーのグリップをつけるってなると、確かに手の違和感はなくなるかもしれないけどそれじゃバーの見せ方としては成り立たない」

山後「そうですね。やっぱり現場の声って面白いです!その声を聞いて視点を取り入れるほど、自分たちが道具をつくる視点が変わってきますね」

菅野「お客さんは意外とツールや手先を一つ一つ見ているんですよ。だからそこをなまけてしまうとそれが評価になってしまうので、注力するポイントですね」

バーという空間・時間が特別なものになるために、そこで使われる道具には「色気」という要素が求められる。機能性はもちろんですが「道具が使われる空間の理解」こそが、道具のあり方を作るのだと、インタビューを通じて教えられました。その「空間」については第三章でさらに深掘りしていきます。

Interview and Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Transcribe: Shizuku Ishijima (ThreeSnow)
Edit: Mayuko Kimura
Photo: Kakeru Ooka

前章)第一章「Bar Strainerをつくる」
続章)第三章「バーカウンターの向こうから見える世界」
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