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  • 2023.03.15
  • 特集

カメラマンと道具屋の交点

現代において写真や映像は、情報を伝える手段として最も有効的なものの一つであり、必要不可欠なものとして位置付けられています。プロカメラマンという職業はいわば「プロの伝え手」。調理道具を作る私たちスリースノーが、使い手の皆さんに商品を届けるための非常に重要な役割を果たしているのがこのカメラマンたちです。

日々彼らと協働することで更新される関係性、そこで生まれる新しい価値。それは一体何か。今回はスリースノーの商品価値を共創する重要なパートナーである、オフィスアトムさんに迫るインタビューをお届けします。

宗村亜登武さん(写真左)
新潟県燕市生まれ。バンタンデザイン研究所写真学科を卒業後、広告や流通の業界を中心にフォトグラファーとしての経験を積む。2018年の独立を機に燕市に戻り、2020年(株)オフィスアトムを設立。蓄積された豊富な撮影技術と商品の見せ方に定評があり、撮影依頼案件はもちろんのこと、SNSなどの運用サポートまで手がける。廃工場をリノベーションした撮影スタジオ兼事務所の写工場にて4名体制の物撮りチームを運営する。

大岡翔さん(写真右)
大阪府茨木市生まれ。写工場に所属しながらフリーランスの写真家・映像作家(https://www.kakeruooka.com/)として活躍する傍ら、旅人としての側面も持つ。2009年、2016年〜2017年と2度の世界一周を経験。現在までに68ヵ国を訪問しており、風景、人、文化、生活を中心に撮影。キャリアとしては大学卒業後、塾教室の運営に従事したのちカメラマンに転身。臨場感のある写真、映像と持ち前のフットワークを生かして様々な現場での撮影を行う。キューバで出会った友人に誘われ、2018年10月に燕市に移住。

※聞き手:山後隼人(新越ワークス スリースノー事業部)

出会い

山後「今日はお二人ともよろしくお願いします!スリースノーのコラムに制作者サイドのオフィスアトムさんが出るのってちょっと意外に思われるかもしれませんが(笑)。「商品をどう見せるか」という命題には動画や画像も確実に含まれているなと思いまして」

宗村亜登武(以下、宗村)「そうだよね。メディアを作る時って、いい写真を置いておけばいいじゃん的な思想もよくあるんだけど、本来「誰に見せたいか」を前提に決めるのがいいんだよね」

山後「その意味で商品をどうデザインするかと同じレベルの話で、同じモノづくりをしている仲間として捉えています」

宗村「いいねー!」

山後「今日はその辺を掘り下げていきますが、まずは僕たちの出会いから振り返ってみたいと思います」

宗村「僕はオフィスアトムを燕で設立したのが2020年の4月。設立前、東京から燕に戻ってきた当時はフリーランスだった。失業保険の関係があって、1年間何も仕事できない期間に、三条の音楽イベントの主催者を手伝っていたんだよね。それで企業へ協賛のお願いに回っていた時に、偶然訪問した企業の商談ブースに隼人がいて、その企業の社長さんに紹介してもらったのが初対面だった」

山後「そうでしたね。それまではお会いしたことはなかったけど、亜登武さんの存在は周辺の仲間から聞いていたので、この人が亜登武さんか!ってなりました」

大岡翔(以下、大岡)「僕は2018年に燕に移住して、二人とはほぼ同時に出会ったんだよね。隼人とはただの遊び仲間であり飲み仲間だった(笑)」

山後「確かに(笑)元々二人ともスポーツが好きだったから週末になるとよく運動してる。仕事として関わり始めたのは確かコロナ禍に入ってからだったような、、、」

大岡「そうそう。ちょうどアトムさんたちと一緒に仕事をし出したあたりで、スリースノーの仕事をいただいて。最初に手がけたのは「てぼラシ」の動画だったね」

山後「その節はありがとうございました!オフィスアトムとして設立して協働し始めたのもそのあたりでしたね」

正解のない仕事

宗村「企業のリクルート向けの動画を作る仕事も受けているけれど、外から見たら笑ってしまうような状況もたくさんあって。例えばとある企業のリクルート動画が10年も前のものだったりすると、今はその企業で働いてない人や現在すでに役職が変わっていて出演してたらおかしいはずの人が映っていることもある(笑)」

山後「よくありますよね(笑)」

宗村「動画の内容を更新しなければならないのに、更新が追いついてない企業・ケースが燕にはたくさんあることに気付かされたよね」

山後「写真以外に映像などのサービスも展開しているオフィスアトムですが、亜登武さんはカメラマンの仕事を始めるときには最初から物撮りを自分の本業にしようと思ってたのでしょうか」

宗村「うん、元々物撮りから入ろうと思って始めた。イラストやグラフィックもできたけど、完成まで時間がかかるのがネックで。写真の方がコスパが良いだろうと思って本業にしていったんだけど、まさかこんなに大変な仕事だとは思わなかったよね(笑)」

山後「撮る、以外の業務が大変ということですか?」

宗村「それもあるけれど、たとえばこの商品にどう光を当てれば良い写真が撮れるのか、という要素で考えても正解がない。つまり際限なくこだわることができるのね。そういう意味では落としどころをどう作るか、それを考えるプロセスが大変」

山後「なるほど、お客さんの要求する内容やレベルによっても変わってきますしね」

宗村「そうね。クライアントがイメージする画を再現しようとしても一発では再現できなくて。むしろ理想とはちょっと違うはずの表現を気に入ってもらうこともあるし、難しい」

大岡「確かに。人を映したり他の対象を撮影するのと違って、物撮りって個性をあまり出さない仕事だと思うんですが、亜登武さんはどう考えます?」

宗村「それでもやっぱり、陰影のつけ方や固そうに見える/柔らかそうに見えるかの程度に個性が出てくると思うよ」

大岡「そうですね。パキッと見せるか、やんわりした雰囲気で見せるのかは違いが出ますね」

「光」を操る

山後「陰影のつけ方に代表されるように、写真の技法・個性に対してお二人は好みの傾向はありますか?個人的に」

大岡・宗村「あるよ」

宗村「たとえばこのまどろむ酒器で解説するね。この商品は本体に錫メッキがかかっていて、これも一つの商品の魅力じゃない?作り手からするとこの錫メッキの良さを伝えたい気持ちが大きくなって、錫メインに出したがることもある。でもこの錫メッキの魅力って、(柄が変化する魅力の)一つ背後にあるからこそ良い場合があるよね」

山後「そうですね」

宗村「伝えなければダメな部分なんだけど、100人いたら全員に伝わる必要がなくて、そのうちの5人がわかってくれるだけでいい。そうするとその5人が錫の魅力を自分で発見することになり、自分の口から錫の良さを発信してファンになっていく方が実は良い、という考え方もある」

山後「なるほど、わかりやすい!」

宗村「そうなると錫は2枚目の表現にしたり。どっかの文脈に読み込んでいったらわかるようにしておくのね」

山後「なるほど、技法としては2枚目を用意するのが多いですか?」

宗村「2枚目が用意できる時にはそうするかな。1枚でしか完結できない時には光を用意して、どこかの光でそれを作っておく。錫らしさを表現するために、鈍い光り方が写るようにセッティングしつつ、目の動線的には変化する柄に注目しやすい構図にしておく」

山後「そうか。つまり光の具合で目を動かすというか、注目させるということなんですね。面白いですね、一枚の写真の中にも裏がある(=レイヤーがある)ということなんですね。今までほとんど意識したことがない世界です」

宗村「そうだね。たとえば左から右に光を入れると、人の目って自然な光として認識するから光を意識しないけれど、逆側から光を入れると急に時間的要素が反転して違和感を覚える、という構造がある。すごく綺麗に写真が撮れていても光の方向で”あれ?”ってなることもあるし、ちょっとノイズを入れたい時はそれを利用して撮ることもある」

山後「へえー!それも面白い。言われてみたら左から右に光が当たっていることがほとんどですね。これは、人間の慣習的なものでそういう方向性なんですか?それとも生物学的なもの?」

宗村「生物学的なものでしょう。自動販売機でも一番売れるものを左上に持ってくるって言うし」

山後「確かにそうですね。これも意識したことがないですね。新しい発見!」

大岡「ちょっとやってみようか。写真を反転してみますよ」

反転後の写真を見て

宗村「ほら、ちょっと気持ち悪いでしょ?」

山後「ほんとだ。気持ち悪い(笑)」

大岡「そうなんだよね。たまに”光を反対側から当てたらいいやん”っていう方もいらっしゃるけれど、それだけで元の写真が変な印象になる。この構造を分からないと、変な印象の写真を撮ってしまうことになる」

左:左から光を当てた正しい写真 右:左右反転した写真

山後「なるほど。分からないまま変な指示やお願いを通してしまったら怖いですね」

宗村「そういう点も含めて「写真周りのことならアトムさんにお任せします!」って言ってもらえる環境づくりには力を注いでいます」

写真や映像は「時と場所を超えて活躍する営業マン」

宗村「いつも撮影を依頼されるときに言ってることがあって、商品を直に手に取って触ったり体験したりして買える人って一握りしかいないと思っていて、大多数の人が写真を見てから商品を知り購買のコミュニケーションが始まることになる。その時に営業マンも必要だけど、時間や場所の制限があるよね。でも写真や動画はもう一人の営業マンとしてずっと働き続けてくれる。だから、写真は写真として考えるのではなくて「ずっと頑張ってくれる一人の営業マン」として考えて、時間や費用を投資した方がいいと思うんだよね」

山後「そうなんですよね。営業のリソースを外に発注するということと、もはやほぼ同義ですよね。営業マンを雇うのではなく、営業マンの働きを買うというイメージ」

宗村「そうなんだよね、それが写真であり動画の価値」

大岡「だから実際の営業マンの活躍の場が広がるというよりは、写真や動画の形をした営業リソースの活躍する場所が広がっていくってことだよね。特にこのコロナ禍の期間は特に」

山後「そうですよね。データで一瞬で飛ばせますし、海の向こうにも。燕の某所で撮影したイメージ写真が海外の売り場で広告しているって、想像するとめっちゃ面白いですよね(笑)」

大岡「本当にね。あ、でも海外いいなー、行きたいわ(笑)」

宗村「俺は行かなくていいや、翔くん行っておいで(笑)」

面白がって撮ること

山後「世界を旅した翔さん、旅といえば翔さんですね」

大岡「今年(2023年)あたり一ヶ月くらいインドに行きたいなーと思ってる」

宗村「なにね!?(笑)」

山後「インドに行ったら何をしたいとかあります?」

大岡「山を歩きたいね(笑)」

山後「山登りは一緒に行きたいな(笑)でもオフィスアトム的には少し大変になりますね」

宗村「いやでも、それってチャンスだと思っているよ。例えば燕市内の企業さんにインドで撮ってきてもらいたい商品を呼びかけてみるとか」

山後「あーなるほど、いいですね!インドのロケーションで撮ることなんてないですもんね」

宗村「現地の動物にザルを咥えてもらったら?(笑)」

山後「やばいですね(笑)」

宗村「まあ冗談としても(笑)バブルの時代ってそういう超おふざけの広告写真っていっぱいあってさ。何これ!?みたいなくだらない写真たちが広告の世界に溢れていた」

山後「あ、そうなんですか?あまり見たことないです」

宗村「すごくお金かけて、子どもの遊びの延長みたいなバカみたいな写真をやっていた広告って面白いなと当時思っていた。それがどんどん、企業がかけられるお金が無くなるにつれて商品の魅力をどう正しく伝えるか、どれだけかっこよく伝えるかという方向に集約されていったんだよね。昔みたいなバカやることは無くなった。真剣にやってたのってカップヌードルくらいじゃないかな」

山後「確かにそうかもしれないですね。スケールが変わったわけではなく、商品を伝えるときに「どう楽しめるか」にフォーカスして物事を考えるということでしょうか。この側面は現代において見直されてもいいような気がしますね」

宗村「そうなんだよね。そして、それにかけられるコストはどんどん安くなっていってるはずだから、楽しむなら今しかないなーって思う。全般的に一緒に面白がってくれる人が少なくなってきているのも確か」

山後「広報・広告の王道が「正しく価値を伝える」だとすれば、いわゆる“バカをやった”広告ってその「余白」であり「遊び」部分ではないかと思うんです。確かに売上ベースで考え始めると前者の考え方が優先になるかもしれないですが、何か見方や視点を変えるという意味では必要な側面ですよね。その例になるかわかりませんが、翔さんとプライベートで一緒に山に登るときに、自分が撮る登山道や山頂付近の写真と比べると翔さんが撮る写真って全然違うことがあるんです。登山道に落ちている落ち葉をどう綺麗に撮ろうかみたいな視点で撮っていて。なんかちょっとハッとすることがあるんですよね、そういう部分が「山頂を目指して登る行為」における”遊び”の部分なのかなと」

大岡「それは俺がコケないように、ずっと下見て歩いているってだけやと思うで」
(一同、大爆笑)

「正しく」あることは合理的に見えるかもしれない。しかし自ら余白を作りながら、面白がって見せ方を探求することも重要な過程であり、それを追求するカメラマンの姿から新しい何かが生まれそうな予感がしました。製作者の手を離れて広く世界を駆ける「営業マン」としての役割を考える写真や映像の価値が、ものづくりをする我々との交点にはあります。後編では「カメラマン」と「燕」の関係について深く掘り下げていきます。

Text: Hayato Sango (ThreeSnow)
Photo: Atom Munemura・Kakeru Ooka (Office-Atom)
Edit: Mayuko Kimura

オフィスアトムインタビュー後編はこちら↓
https://threesnow.jp/news/feature/23031601/