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  • 2024.08.09
  • 特集

サスティナビリティのジレンマと作り手の想い

デザイナー兼お茶屋さんとしての歩みを始めたMATSU-CHAのお二人ですが、その事業の背景には”ある想い”がありました。オランダでの暮らし、デザイナーとしての気づき、様々な視点から切り込むお茶事業への想いを掘り下げます。

サスティナビリティのジレンマを考える

Joshua「一般的に抹茶が入っているものってジップ式の袋タイプのものや缶に入っているのですが、私たちの事業ではパッケージにもこだわりたいと思っていろいろ試作してきました。例えば、イギリスの企業が海藻の副産物を使用してつくった生分解性の紙などをわざわざ取り寄せたりしました」

山後「なるほど、パッケージ素材一つとっても様々な選択肢があるのですね」

Joshua「もちろん解釈や商品への落としこみの幅がある中でですが、できる限り自分達の商品に使うパッケージ材をサスティナブルなものにしたいという想いを持って試行錯誤しています。もちろんまだ試せていないものはトライしてからですが、Recyclable なものにできるといいなと考えています」

Marin「日本は焼却場が発達していますが、こちら(オランダ)では環境問題への取り組みが本当に進んでいて、国家として2050年までに完全な循環型社会をつくることをゴールに掲げています。使い捨てのものには厳しいペナルティをかけたり、禁止にしたり、リユーズ、リサイクルできるものを優先したり…。わたしたちも早急に環境にやさしい、循環できるパッケージやシステムを確立したいと思っています」

山後「そういう背景もあるのですね!」

Marin「日本は焼却場の数が1000以上あって、次がアメリカとかになるのですが数で300ほど。日本がダントツに多く、焼却処理の技術もすごく進んでいるそうです」

Joshua「焼却が環境に悪いと言われがちですが、私たちも実際に東京や大阪の焼却場を訪ね、目で見て聞いてきましたが、日本の技術が海外では再現できない部分があるようで、実際は一概に焼却は環境に悪いわけではないと思っています」

山後「例えば焼却オプションの少ない環境で生活することが、サスティナビリティへの関心を引き付けることにつながるのでしょうか。個人的な(素朴な)疑問で、生活の中でのサスティナブルの重要性というのが概念上では理解できるけれど実感としてうまく入ってこない部分も正直あるので」

Marin「私もいろいろ考えるのですが、サスティナブルの極論は「何もしないこと」なのです。自給自足。でも結局できることは限られるので、できることをしよう、ということになるのですね。例えばプラスチックのレジ袋有料化は日本でもスタンダードになりましたが、お店によっては袋をつけることをサービスの一環として考えるが故に、お客さん側からしてみたら袋はいらないけれど、お店側からしたら「手をつけた」「シワになった」から再利用できないという論理もあるわけです。こうすると「見えないところのゴミ」が増えていく。この部分にはオランダの人も強い関心があると感じています。個人ではないレベルでの取り組みですね。ゴミが出てしまうのは仕方ないけれど、どうやってそのゴミを無駄にせず循環させることができるのか、ミニマムエナジーで回していけるのかを考えています」

山後「なるほど」

Marin「私たちのお茶事業でもカットできない部分は無理にカットせず、可能な限りで使うエネルギーや環境負荷を下げたいと思っています。例えば小さな包装資材のレベルであれば工夫することができるし、茶道具もこちらで製作できるものはこちらで調達したい。でも茶筒やこの茶漉しもmade in Japanでクオリティのレベルが段違いです。その辺りのできることとできないものは分けるようにしています」

Joshua「耐久性が全然違いますよね。スリースノーの茶漉しもそうですが、日本から輸入している茶筅(高山茶筅さんのもの)も耐久性が高く、長く使える道具です。少し値が張るかもしれないけれど、環境的負担も減りますし長く使えるものとして、私たちの価値観に共感してくれるお客さんが買ってくれたらいいなと思っています」

Marin「サスティナビリティの議論はキリがなくて、作る工程から、輸送のことまで考えていくと何かしらの環境負荷をかけてしまう。だからどういうオプションを取るかはその人次第になってくるとは思っていて、地元産のものを使うのも一つの選択、海外から輸入されたもので長く使えるものを使うのもまた一つの選択です。その上で選んでもらえるなら嬉しいですね」

山後「そうですね。日本でもサスティナブルの価値に目を向ける人の数は増えてきたような印象を受けるのですが、サスティナブルの概念を語るときに「利便性」が対極になる文脈は多いと思っていて。この2択、あるいは2軸のどちらを取るかみたいな話になりがちですよね。ザルも「10年使っても壊れない」という価値を伝える前に、価格を見られて「そこまでお金は出せない」と感じる方もいらっしゃるように、その人ごとに基準は変わりますよね」

Marin「そういう意味ではオランダやヨーロッパの人たちのお金の使い方は、日本人のそれと違うように思えます。例えばアウトレットでも、安ければ「ラッキー」ではなく、価格の理由を問う傾向にありますね。なぜ安いか、なぜ高いかを考えて購買するということですね。そのため、値段重視というよりも、どうせ買うならどの企業(や個人)をサポートしたいか考えて買う、長く使えるものを買う、といった風潮がありますね」

作り手の名前は

Joshua「この事業に取り組み始めるまで農家さん同士のしきたり的なものとか、お茶業界のことを全然知りませんでした。一例ですが、お茶農家さんから直接仕入れようとすると名前は出さないで欲しいと言われることもあります。問屋さんを経由して商売するのが通例だから、とのことで」

山後「燕のものづくりの世界でもそれはありますね。似ています」

Joshua「デザイナーやクリエイターの世界って、自分の名前がクレジットとして入れるのが普通なんですよ。名前が入ってなんぼなんですよ。大きい会社と仕事をしてしまうと、報酬は高いけれどデザイナー個人の名前は出さないでほしいと言われます。でも、私たちはそういうのがはっきり言って嫌なんです」

山後「下請けのようなことになってしまうんですね」

Marin「デザイナーの名前を出すような気持ちでお茶農家の方に会いに行っても、「僕たちはむしろ名前を出さないほうがいい」と。自分たちとは全然考え方が違いました」

山後「どちらの気持ちもよく分かります。でも、絶対名前は出すべきだと思いますね。個性だし、次の受け手がこだわりすべてを受け止めて表現してくれるわけではないですし。表現することが求められる時代なので、オリジナルを発信できる人間がいたほうがいいなと思います」

Joshua「人が作っているから自分もつくるのではなくて、クリエイティビティは大事にしたいですね」

山後「その思想、すごく好きです。(笑)デザイナーが本業だからこそ、オリジナルの名前を出すっていうことは大事にしたいのですね」

『神使』と茶 パッケージのデザイン

Marin「お茶のパッケージは「神使」がコンセプトです」

山後「神使、ですか?」

試作当時のパッケージ。神使がモチーフ

Marin「神の使いです。狐やニワトリや兎がモチーフの日本らしいコンセプトです。神様が動物に宿って人間と交流するように、お茶が自分の時間を大切にする仲介役(ediator)になってくれるようにってこのコンセプトにやっとたどり着きました。ささやかなセレモニーとして自分の時間を大事できるように、お茶がつなぎ役になってほしい」

山後「なるほど!めちゃめちゃいいですね。人間と崇高なるもの(=神)との関係を、神の使いの動物(=茶)が媒介してくれるっていうコンセプト、しっくりきます。そして日本に昔からあった神道的なものを、現代のデザインとして表現されているという点。元からある資源がシンプルに表出されているので、とても自然でしっくりきますね」

Joshua「デザイナーなので、自分たちがいいなと思える個性のあるものを作ることって大事。日本的で禅を感じるようなミニマルなデザインが流行っているけど、それじゃ差別化できない。ひとりよがりにはなってはいけないけど、もっと自分の内側にあるものを出さないといけない」

山後「自身のなかにあるものを表出したいっていう思いが強かったんですね」

Marin「そこは議論のポイントだったよね。デザインはコミュニケーションが前提なので、自己満足でつくってもしょうがない。だからといって、万人に媚びるようなもの(people pleaser)ばかりを作ってしまうと自分たちの価値が表現できない。これから長く続けていけるのか、それとも今限りのトレンドなのか、軸となるコンセプトを考えることがすごく大事でした」

山後「長く続けていくためには根幹になる部分の議論は大事ですよね。信念、みたいな。お茶の事業の話にしてもパッケージの話にしても、お茶と自分の生活や考え方とリンクさせながらこれから取り組もうとしているんですね」

Marin「小さいお店ならではじゃないですかね。小さいお店となると、好きだから買う・お店に通うっていう部分が多い。そうなると自分たちが顔を出して、オーナーの思いを伝えることが大事。なので、嘘はつけないなって思います」

山後「自分の表現するものの根っこには本物の声が入ってないといけないっていう、その感覚よく理解できます」

MATSU-CHAが描く日本茶

Marin「正直、本物の禅の雰囲気のあるThe日本のお茶にも憧れたこともありました。でも、自分のルーツがそもそも違うから本物にはなれない。じゃあ自分たちはどのスタイルを目指せばいいだろうっていうのは早い段階から考えていました」

山後「ガチガチの茶道もひとつの文化ではあるんだけど、もうちょっと自由になればいいなって思います。オーソドックスなものだけがいつまでもどこでも牛耳っているのはどうかなって。文化が需要され変容して、時代に合った新しいものが作られていくといいと思います。自分たちの道具がその媒介になればいいなって」

Marin「それはそれ、これはこれっていう風に考えられればいいですよね。私も前は日本が合わないなっていう感覚しかなかったけど、今では日本の良さもたくさんわかるようになりました。昔は日本に対して否定的な日本人が多かったけど、いまは逆に日本が好きだから海外で正しい情報を広めようっていう人が多い。自分もそうなりたいなって思います」

日本にルーツを持ち、オランダで生活することを通して見えてきたもの。そしてデザイナーとしての多くの経験から得られた考え方。道具からパッケージまでこだわりぬくMATSU-CHAには、2人の人生に裏づけられた確かな思想が存在します。それは今この時代のお茶の在り方を考える重要な視座でありながら、固定せず、まだまだ変貌を遂げる可能性のあるもののように感じました。家族4人で作っていく彼らの事業を、スリースノーはこれからも応援していきます。

MATSU-CHA

Interview, text and photo : Hayato Sango / Shizuku Ishijima (ThreeSnow)
Edit: Mayuko Kimura

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