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  • 2024.08.08
  • 特集

日本茶の魅力を伝える

第1章ではMATSU-CHAさんの日本茶事業のいきさつと茶こしとの出会いを聞きました。続く第2章ではヨーロッパ、オランダで日本茶、抹茶がどう受け入れられるのか、そして彼らの挑戦を掘り下げていきます。

オーガニックの条件

Joshua「よろしければ、お茶入れましょうか。我々のお茶事業のコンセプトでもある、オーガニックのお茶もできます」

山後「ぜひお願いします!オーガニック、とても興味あります」

Marin「実はオーガニック認証を取得するのにもなかなか苦労しまして。輸入時の通関手続きで業者さんとのやり取りもいろいろ重なるのですが、中には認証を受けられなかったお抹茶もあります」

山後「その辺もぜひお伺いできたらと思っていますが、やはりヨーロッパでオーガニック認証を受けるのはとても厳しいのですね」

Joshua「厳しいですね。まずは会社が認証を受ける必要があって、これが大変。いろいろ時間をかけて準備して、審査はみっちり3〜4時間も受けました」

山後「それは大変ですね。そうすると、なかなかヨーロッパでオーガニックでお茶を取り扱う企業さんは存在しない?」

Marin「よくあるケースは、大きな茶問屋さんが認証をとっていてそこから仕入れる形ですね。そこが輸入の際に認証を代行してくれるので、カフェや個人に近い形の形態をとっているお店はやりやすいと思います。私たちのように日本の茶農家さんから直接輸入で認証をとっているのはかなり少ないと思います」

山後「他にやっているところがないというのは、それだけ手続きや労力のかかるものだということですね」

Joshua「元々オーガニックのお茶は使える肥料にも制限があって、JAS認証された肥料しか使ってはいけないことになっています。だから認証を受けている抹茶は「うまみ」が出しづらく、苦味が主張してしまう場合が多い。美味しいオーガニックのお茶は作るのが本当に難しいのです」

山後「なるほど。オーガニックとうまみ、二つの要素を同時に追求するのは難しいんですね」

Marin「他にも、美味しいオーガニック抹茶へのチャレンジはあります。例えば、京都と鹿児島だと地形も違います。山間地っぽくなっていたり平地だったり。入り組んだ地形だと、自畑でだけオーガニック栽培をしていても、近隣の慣行栽培をしている茶畑との距離が十分とれずオーガニック抹茶の認証が難しい。また、お茶を仕上げる工程を最後まで自社工場でできるところもあれば、そうでない(仕上げの工場が別)ところもある。工場がオーガニック認証を受けていなければ、最終的なお茶もオーガニック認証は受けられないですし、美味しいオーガニックのお抹茶が希少な理由はさまざまですよね」

Joshua「茶畑の日々のケアも手間がかかります。虫がついてしまっても機械ではなく人の手で取っていく必要がある。とても繊細な作業です」

苦み(bitterness)の認識

Joshua「私たちの見解でもありますが、ヨーロッパの人たちはお茶に”苦味(bitterness)”があるものを品質の低いものとして捉え、逆に苦味のないものを良いお茶・抹茶として好む傾向にあります。煎茶でもそうですが「苦さ」はシチュエーションによって良い効果になる場合もありますよね、合わせるお菓子でも変わってくるように。しかし、こちらでは苦味がないお茶こそ最高である、という認識が強いように思います」

山後「だからこそ、苦味をいかに抑えるかということが重要なのですね。なかなか困難な課題ですね(抹茶をいただいて)すごく美味しいですね。しっかり抹茶の旨みを感じます」

Joshua「ありがとうございます。私たちもオリジナルのお茶を3種作っていて、一つは京都のオーガニックの抹茶、一つは鹿児島県・霧島のオーガニックの抹茶、そして残る一つが手摘みの慣行の抹茶。私たちはオリジナルブレンドを通して、いろいろな産地や栽培方法で生まれる味の違いを体現していただきたいと思っています。やはり慣行の抹茶を飲むとわかるのですが、旨味が全然違います。使える肥料の種類や量も違うので、違いははっきりと出るようになります」

山後「それは興味深いですね。肥料が旨味のインパクトに大きく関わる要素であると」

Marin「そうなんです。そもそも農家さんごとに肥料の配合や、遮光のタイミング、お茶の木をどの高さまで育てるか…など本当に様々で、生み出される抹茶の味もそれぞれ全然違って、知れば知るほど面白いです」

Joshua「地域性でも味は結構変わってきますね。京都のお抹茶はやはり歴史があるだけあって、美味しい。熟成させるので深みがあります。霧島(鹿児島県)のお茶はさっぱりとした味わいですが、苦味に対して慣れていないヨーロッパの方々には若干人気が高いようにも感じています」

山後「なるほど。苦みがあまり得意ではないヨーロッパの方々としては、淹れ方にも変わった傾向があるのでしょうか?

Joshua:レシピを見るとわかるのですが、例えば私が今点てた薄茶は70mlくらいのお湯ですが、こちらの方々はそこからさらに100mlくらいお湯を足します。日本人からすると本当に薄くして飲むので、そのギャップはありますね。アメリカンコーヒーのような感じです」

山後「興味深いですね。確かに以前、アメリカに出張に行った時にも抹茶をだいぶ薄くして出していたことを思い出しました」

お茶は「エナジードリンク」か

Joshua「そうですよね。あとはこちらの人たちは抹茶をコーヒーの代用として飲まれる方も結構いらっしゃいます。感覚としてはブラックコーヒーのような感じ」

山後「それはカフェインを摂るために、という目的に近いのでしょうか?」

Joshua「それもあります。カフェインの入り方も違いますし。コーヒーのカフェインの入り方はスパイクがあって勢いよく効果が出てきますが、抹茶は緩やかにカフェインが入っていく。エナジーが長続きするというのもありますし、他の健康的なベネフィット(免疫向上、集中力、カテキンの効果による健康面での利点、など)があるので、「グリーン(クリーン)エナジー」的な形で評価されている傾向にはありますね。また最近までコロナが流行ったのもあり、セルフケアの重要性が注目されたところも抹茶の注目度が高まった要因の一つかなと思います」

Marin:ただ私たちはその部分だけでお茶の価値を捉えて欲しくないとは思っています。お茶本来のおいしさや楽しみ方をもっと味わってもらいたいですね。

日本茶の価値「無限通りの違い」

Joshua「さて、次の抹茶を飲んでもらいたいのですが京都の「うじひかり」という品種です」

Marin「オーガニックの私たちイチオシのシングルオリジンです。今年からオーガニックと呼べるようになった(JASの認証を取れた)お茶で、味もだいぶいい感じに出せるようになったということを聞いていて、私自身も楽しみにしていた抹茶です。もはやラテとしてではなくて、ストレートの抹茶としてこちらの人たちにも飲んでほしいですね(笑)」

山後「わかります。本当にこだわった美味しいお茶はまずそれ自体を味わう方法で飲みたいし飲んで欲しいですよね。こちらのお抹茶もおいしいですね、香りの印象が全然違う」

Joshua「そうなんです。ここの農家さん、風味も独特で自然っぽい香りを感じますよね」

Marin「私も大好きなお抹茶の一つです。私たちのお茶事業のインスピレーションには、ワインやスペシャリティコーヒーなどに代表される「品種の違い」や「地域の違い」を楽しめたらいいなという思いがあります。抹茶は味の違いを認識するのが少し難しいかもしれないけれど、私たちがセレクトする抹茶の味はなるべく味の違いがわかるような感じだったり地域性が出るような味にしてほしいと願って、茶師さんにお願いしました」

山後「なるほど、これは確かに違いを感じやすかったですね」

Marin「商品の品質がいくら良くても「お客さんに商品の魅力をどう伝えるか」はとても大事なことだと思っています。お茶の魅力ってたくさんあるのですが、一気にしゃべってもうまく伝わらないので、まず何から伝えるべきかはいつも考えています。

山後:確かにそうですよね。お茶の魅力は多くの側面からいろいろ語れてしまうくらい詰まっている。どこを最初を切り取るかは私にとっても共通するテーマです」

Joshua「オリジナルブレンドを決めるまでに、どれを組み合わせようか色々考えました。最終的に3つにまとめるまでに21種類くらい試しました」

山後「なるほど、味や性格の違いが多いのはお茶の魅力ですよね。私は煎茶を飲むことが多いですが、煎茶も味や性格は多岐にわたっています。ワインにソムリエがいるように、お茶の楽しみ方・味の違いもガイドが必要なくらいに幅広い」

Marin「ほうじ茶ですら多岐にわたりますからね。「焙じ方」を掛け合わせれば、もはや無限通りです(笑)」

品種や地域の違いこそお茶の魅力。幅広く、奥深く掘り下げられるお茶の世界には「いかにその魅力を伝えるか」という伝え手の命題があります。オーガニックというハードルにも挑戦する彼らですが、生産者を知るからこそその幅や奥深さを知り、彼らなりのお茶の魅力の伝え方に挑戦する姿を垣間見ることができました。そしてデザイナーでもある彼らにはもう一つ大きな挑戦がありますが、そのお話は第3章に続きます。

Interview,text and photo : Hayato Sango / Shizuku Ishijima (ThreeSnow)
Edit: Mayuko Kimura

続章<第3章>はこちらから

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